Lv.2 あさひな れいじ

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Lv.2 あさひな れいじ

「書籍化ですか!?」 驚きと喜びが入り交じった声をあげたのは、朝比奈(あさひな) 礼治(れいじ) 当時二十歳の小説家を目指していた青年だった。 性別は男、身長168cm、体重57㎏、金属製の丸眼鏡をかけた少し目付きの悪いやせ形の彼の作品は携帯小説サイトのホラー・ミステリー部門で賞を取り、念願の小説家としてデビューを果たした。 気持ちが高ぶると発生する超能力を悪用する異常犯罪者と、同じ超能力を持つ主人公の戦いを描いたエログロホラーミステリーという内容だった。 サイト内では高い評価を受けた作品だったが、いざ書籍化された作品は「無料で読める中なら、それなりのクオリティだけど買ってまで読むほどでは無い」と言う評価で、礼治や出版社の編集部が思っていた以上の売上とはいかなかった。 それでも、礼治は次に向けて意欲を燃やし「こんどこそは」と担当編集者に次回作を持ち込むが・・・次のチャンスを得る事なく3年が経過し、今は実家を離れ1Kのアパートで新作の構想を練りながらコンビニでアルバイトしている。 接客業は多くの人と接する機会があるので、人間観察するにはうってつけだった。 ちょっと癖がある客がいたら、空き時間でメモをとりキャラクター作りの材料にしていた。 しかし、どうにも「これだ!」という構想が浮かばす悶々とした日々が過ぎていく。 13時に出勤し、21時までの勤務で17時からはアルバイトが入れ替わる。 いつものろくに挨拶もできないガキでは無く、まるで違う次元から現れたようなブレザー姿の美しい少女と共に店長が現れた。 店内照明の光を反射しているかのように、きめ細かい艶のある白い肌が一瞬、眩しく感じた。 女優やアイドルが輝いて見えるなんて表現は聞いた事はあっても、実際に体感したのは初めてだったので礼治は思わず見とれてしまっていた。 「皇 美亜です。宜しくお願いします」 「・・・」 呆けている礼治に、見るからに優しそうな中年の男性店長が声を掛ける。 「礼治君、どうしたの?」 「あ、すいません・・・挨拶が遅れて失礼しました。朝比奈 礼治です。宜しくお願いします」 礼治は仕事をしながら、この美少女を文章で表現するならどうすれば良いかな?などと考えながら、その日は特に会話もせず仕事を終えた。 それから一週間が過ぎ、仕事にも慣れてきた様子の彼女に二人組の男が声を掛けてきた。 一人は短めの金髪、もう一人はロン毛でいかにも軽薄そうだ。 「君、めちゃめちゃ可愛いね!仕事終わったら、遊びにいかない?」 ナンパか・・・品出しをしていた礼治は、ひとまず様子を伺う事にした。 この場合、彼女が迷惑がっているかが重要なのでいきなり割って入るのもいかがなものかと思っていた。 「あの、買い物が済んだらお帰りいただけませんか?」 「じゃあ、ライン交換してくれたら帰るよ」 出会いを求めている美亜だったが、この二人に対しては何の興味も沸かなかったので迷惑でしかなかった。 数分やりとりしたが、帰ってはくれない。他の客も店に入った瞬間、踵を返してしまう。 ポケットに忍ばせている呼び出しスイッチを押せば、外で待機している護衛の黒服に排除してもらえるが・・・どうしたものか。 そんな事を考えていると、再び自動ドアが開き背の高い若い警察官が入店してきた。 「あ~なんか、無性に職務質問したい気分だなぁ~お、君たち何歳?」 二人組は、顔を見合せ「僕たち、ちょっと急いでますんで」と言ってそそくさと立ち去って行った。 若い警察官は睨みを利かせながら、二人が店から出ていくのを見送り溜め息をつく。 あまりにもグッドタイミングで現れた警察官に美亜は礼を述べた。 「あの、ありがとうございます」 「いや、礼なら君の後ろにいる陰キャオーラ全開のソイツに言ってくれ」 美亜が振り向くと、そこには礼治の姿があった。 「なかなか早かったな、高瀬(たかせ)」 「巡回中、急に呼び出されて急いで来たからな。礼治、俺だって暇じゃあないんだよ?」 「市民を守るという重要な仕事をさせてやったんだ。ありがたく思え」 二人のやりとりを美亜はキョトンとしながら見ていると、高瀬と呼ばれた警察官は軽く手を振り店から出て行った。 「あの、朝比奈さんがさっきの警官さんを呼んでくれたんですか?」 「はい、困っていた様子でしたし・・・余計なお世話でしたか?」 「いえ、助かりました。ありがとうございます」 「それは良かったです。では、品出しの続きやってきますね」 品出しを終えた礼治に、再び美亜は話しかける。 「さっきの警官さんはお友達ですか?」 「あぁ、そうですね。幼なじみなんです」 警察官の高瀬は身長180cmくらいで細身だが筋肉質で肩幅があり、一重瞼でキリッとした印象で所謂イケメンという類いの青年である。 出会いを求めているなら、まずは彼の事が気になるのが普通だが・・・美亜は朝比奈に興味を持った。 21時になり、次のスタッフと交代し礼治はロッカーから安物の黒一色のスカジャンを手にとる。 時は11月、上着なくして外は歩けない。 「あの、朝比奈さん!」 「は、はい!?」 帰ったら読み返して小説の続きを書こうと思い、メモを取り出したところに美亜から声を掛けられ、礼治は思わず驚きの声をあげた。 「あの、もし良かったら・・・私とライン交換してくれませんか?」 「へ?僕ですか?」 「嫌、ですか?もし良かったら、親しくして貰えたらなって・・・」 大きな黒い瞳に見つめられ、礼治は思わず目を反らす。 「嫌、じゃ無いですが・・・あまり、使った事が無いので交換のやり方とかわからないんですよ」 「私、やりますから!スマホ貸して貰えますか?」 スマホを手渡し、返された画面にはラインの友達画面に追加された猫のイラストアイコンと美亜の文字が見えた。 礼治にとって美亜は別次元の存在であり、まさかラインを交換する事になるとは夢にも思わなかった。 「で、では、帰ります!」 「は、はい!また明日も宜しくお願いします」 落ち着かない気持ちかは、礼治は逃げるように部屋を出ていく。 一方、美亜も自分からラインの交換を持ちかけたのは初めてだったので落ち着いた様子とは裏腹に緊張の為か胸が高鳴っていた。 「ラインの交換をお願いするのって、こんなにドキドキするんだ・・・あれ、これ朝比奈さんが落としたのかしら?」 床に落ちているメモ帳は、落ちた拍子にページが開いた状態になっていた。 手に取ったメモを見るつもりはなかったが、目に入ってしまった内容に美亜は驚いた。 「これ、何かのキャラクターを考えているのかしら?」 悪いと思いながらも、様々な人物描写が書かれたメモから目が離せなくなっていた。
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