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⭐Lv.23 不死戯のアリス その4
「もしもし、夜分遅くすいません!店長達が大変なんです!」
隙をついて部屋から逃げ出す事に成功した女は、誰かに電話をかけ、現状を報告した。
電話の相手は、優しい声で女に言った。
「わかった。すぐに迎えを行かせるから場所を教えてくれ」
「早く、早く来て下さい!殺される、殺される!」
電話を受けた男は、溜め息をついて手下に電話をする。
「もしもし、指定した場所にメイド喫茶の女がいるから、俺のマンションに連れてきてくれ」
電話を終えた男はベッドから身体を起こし、ワイシャツに手を伸ばす。
「えぇ?もう、帰っちゃうんですかぁ?」
一緒にベッドで寝ていた人気アイドルグループでセンターを務めている美少女が、男を引き留める。
「あぁ、飼ってる猫がドラッグをキメすぎてるみたいでね・・・いますぐ躾が必要なんだ」
男がワイシャツを着始めると、美少女は尋ねた。
「その、左胸のタトゥーって何か意味があるの?」
「赤い龍のタトゥーには、勝利などの意味があるんですよ。では、また」
男は電話の内容を「バッドトリップ中の戯言」と解釈していたが・・・次の電話で、そうでは無い事を知る。
彼女の住むタワーマンションから出て、車に乗り込みスマホの着信画面を見て舌打ちをした。
「チッ、またあの女か・・・連絡先を教えたのは間違いだったな。完全に調子に乗ってやがる・・・調子に乗ってるヤツってのは、回りを巻き込むようなミスをする。そういうヤツは早めに遠ざけるべきだ。確か、女の生皮を剥ぎながらセックスしたいと言ってた頭のイカれた金持ちがいたな・・・良し、明日にでも連れていこう」
そう言い終えた後、電話に出る。
「言われた通り、電話したじゃないですか!ひ、ひぃぃぃ!だずげでぐだざい!あ・・・あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!」
エンジン音と回転音、何かを切り裂くような音が電話越しから聞こえてくる。
「おい、どうした・・・何を言っている?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「待ちなさい!待ちなさいってば!」
ボイスチェンジャーで加工したような声が二つ聞こえたが、そこで通話が終了した。
と、思いきや再び着信が鳴る。
「テレビ・・・電話?」
躊躇いながら、三度電話に出た男は画面に映った女を見て眉をしかめた。
女は女性器から胸の中心まで切り裂かれており、苦悶の表情でダブルピースをしている。
「ごめんなさい♪ごめんなさい♪」
また、奇妙な声が聞こえてきた。
「・・・そこにいるのは、誰だ?」
画面が動き、返り血まみれの少女がチェーンソーにエンジンをかけて振りかぶる。
「次は、お前だ」
破壊音と共に通話が終了する。と、同時に男は車を発進させ窓から自分のスマホを投げ捨てた。
そして、別のスマホを取り出し先ほど女を迎えにいくよう指示した手下に電話をかける。
「おい、到着したか?」
「いえ、ナビだと・・・あと2分ですね」
「お前ら、二人で行動してるよな?あと、二組と合流してから迎え」
「へ?六人で、ですか?」
「良くできた編集動画じゃなければ、そこに女の惨殺死体がある。犯人が待ち構えているかも知れない」
言われた通り、手下は仲間と合流してから現場に向かう。
「うっ・・・」
女の死体を発見し、手下は吐き気に耐えながら男に連絡した。
「やはり、死んでいたか。なら、すぐに撤収しろ。後は表で片付ける」
翌日・・・俺は両親からの連絡を受け、病院に駆けつけた。
「これは、どういうことだ?」
生きているのが不思議なくらいの大怪我をしていたウサミとアリスが、綺麗な顔で眠っている。
「お医者様の話だと、今日の朝に看護婦が異変に気づいて調べたら・・・意識以外は全快しているらしいんだ」
困惑している父親を尻目に、俺はベッドに寝ている二人を見つめる。
あり得ない超回復、奇妙なウサギと少女・・・惨殺された悪党共、何がどうなっているんだ?
ん、ウサミの口が微かに動いた?
「ごめんなさい・・・ごめん・・・」
それは、消え入りそうな小さな声だった。
俺はすぐさま、アリスの元へかけより微かに動いている口元へ耳を傾ける。
「待ちなさい・・・」
この台詞・・・あの、ウサギと少女と同じ?
あまりにも現実離れした発想だが、もしかして二人の魂が身体から抜けて『ウサギと少女』になって復讐しているのか?
考えを巡らせている最中、病室のドアをノックする音がした。
父親が「どうぞ」と返答するとスーツ姿の男が二人、入ってきた。
そして、警察手帳を見せて一礼する。
「捜査は進んでいるんですか?」
母親が苛立った様子で刑事に詰め寄るが、刑事は首を横に振り口を開く。
「今日は、別件で来ました」
そう言うと、刑事は俺を見つめながら話を続けた。
「昨夜、二人が飛び降りた廃ビルで惨殺事件が起きました。目撃者の情報から、君がその場にいたという情報を得ています。御同行いただけますか?」
事情徴収という事か・・・しかし、警察は全く信用できない。
ウサミのスマホには、例の動画が入っている・・・これを両親にバレないように渡せるか?
「惨殺事件?まさか、ショウを疑っているんですか?」
刑事を睨む父親に対し、俺は刑事たちに背を向けたまま近寄ってなだめるように言う。
「まぁまぁ、父さん。落ち着いて」
そう言いながら、俺は自分の身体で刑事たちの視界を遮り、そっと父親にウサミのスマホを手渡した。
父親は察して、スマホを受け取り速やかに袖に隠してくれた。
俺は刑事たちと共に病院を後にし、車に乗った。
覆面パトカーというやつか・・・それにしては、内装が洒落ているな。
「覆面パトカーって、思ったより自由にできるもんなんですね」
「あぁ、これは私の車だよ。君を警察署に連れて行く気は無いんだ」
そう言いながら、刑事の一人が俺の隣に座りスマホの画面を見せた。
スマホには、昨夜の少女による惨殺シーンが映し出されている。
「これは!?」
「あの部屋には、四つの隠しカメラがあってね。撮影現場としても使われているんだよ」
刑事が何者で何故、捜査が進まないか俺はピンときた。
「もしかして、あんた・・・胸に赤い龍のタトゥーがあるか?」
「おやおや・・・それを知ってるんじゃあ、無事に帰れない事もわかっているのかな?」
俺は、またしても悪党に拉致されてしまった。
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