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⭐Lv.24 不死戯のアリス その5
俺が連れてこられたのは、八階建ての高級高層マンションの最上階にある一室だった。
今回は手足を拘束されてはいないが、いかにもヤクザという感じの輩に左右を固められており、逃げ出すのは難しい状況だ。
「さて、色々と聞きたい事があるんだが・・・まず、この映像に映っているのが人間かどうか、我々に勝ち目があるのか、君だけが生き残った事に意味があるのか・・・何から聞くべきだと思う?」
結論から言って、ウサギと少女を止める方法があるとしたら『眠っているウサミとアリスを殺す』しか無いだろう。
その答えに奴らを辿り着かせてはいけない。
「そんなこと、俺にだってわからない」
刑事はじっと俺の目を見る。
「私には、特技があってね。目を見ると感じるんだ。利用価値があるのか、無いのか。ある人間は輝きが違う。無い人間は石ころみたいに何の輝きも無い。君の目は不気味なくらい輝いている。勝算がある、と言わんばかりにね」
「へぇ~なら、俺にもあるかもな。アンタの目は汚染されて淀んだ川みたいに薄汚いぜ?」
それを聞いた刑事は、笑みを浮かべて俺の腹を蹴りあげた。
「っぐ!?」
踞った俺の髪を掴んで顔を上げさせ、口を開く。
「お前、こんな状況で何でそんな事を言える?自分は死なないと思って調子に乗ってるだろ?ただのバカで勘違い野郎なのか、根拠があるのか・・・とりあえず、指でも落としてみるか」
俺は両側にいた二人のヤクザに身体を押さえつけられ、無理やり右手をテーブルに乗せられた。
刑事は、何の躊躇も無く取り出した短刀を横向きにして俺の薬指と小指の間に突き刺した。
「っぐあぁ!?」
薬指と小指が、今にもちぎれ落ちそうになっている・・・なんて事をしやがる・・・痛みで思考が止まってしまう。
「さて、話の続きをしようか。君は偶然、生かされただけなのかな?奴らと関係があるなら、助けにくるのかな?」
そんな事を言われても、わかるハズが無い・・・そう思った矢先、刑事の携帯が鳴り電話に出た。
「・・・モニターに回せ」
部屋のモニターに映像が映し出された。
一階のエレベーターに向かって、ウサギが跳び跳ねて行く!
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「待ちなさい!待ちなさいってば!」
それを追いかけて、チェーンソーを持った少女が走って来る!
エレベーター付近で待ち構えていたヤクザが数人現れ、銃を構え発砲した!
ウサギの身体は、ぐねぐね動いて銃弾をかわすが、少女は全身に銃弾を受けてアニメのチーズみたいに穴だらけになり、噴水みたいに血を吹き出した。
だが、スカートの中から取り出したポップコーンを空中にバラ撒くと・・・ポップコーンが傷口を埋めて血が止まった。
「あんた達、私と戯れたいの?」
再び、ヤクザたちは銃を撃つ!が・・・今度は、いとも容易くかわされ、少女は次々とヤクザたちの身体を切断していく。
「全滅みたいだな?どうする、こんな高層マンションじゃ逃げられないんじゃあないか?」
俺は、ここぞとばかりに刑事に重圧をかける。
しかし、刑事は涼しい顔で答えた。
「このマンションはエレベーターでしか上がってこれない。そして、エレベーターは居住者の指紋をスキャンしなければドアも開かないし、起動すらしない。奴らがここにくる方法は無いんだよ」
確かに、普通なら無理だろう。
だが、きっと来るに違いない。
その証拠に、窓の外から聞こえてきている。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「待ちなさい!待ちなさいってば!」
手下の一人が、声に気付き窓から外を覗いた。
「か、壁を駆け上がってきてるぞ!?」
ウサギの体当たりで窓ガラスが割れ、続けて入ってきた少女が、すれ違い様に手下の首を切断した。
残る手下が長ドスで少女に斬りかかるも、チェーンソーで刃ごと無惨にぶった切られて胴体が床に落ちた。
「な、何なんだ・・・お前らは!?」
後退りする刑事の頭にウサギがぴょん、と乗っかった。
「ごめんなさい?」
振り下ろされたチェーンソーをウサギはひらりとかわし、代わりに刑事の頭を左右に割った。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!?」
脳ミソと血が飛び散る中、少女は笑いながら刑事の胸ぐらを掴み、ポイっとゴミを投げるように窓から放り投げる。
数秒後、グシャッという音が外から聞こえた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
少女は、なおもウサギに切りかかろうと距離を詰めて行く。
このウサギが切られたら、ウサミはどうなってしまうんだ?
俺は、ウサギを庇うように少女の前に立ち塞がる。
「なぁ、君はアリスなんだろ?このウサギはウサミなんだろ?奴らの悪事を証明する動画もある!だから、もうウサミを追い回すのは止めて戻って来てくれ!」
「ダメだよ、兄さん・・・まだ願い事が一つ叶ってないんだから」
背後からウサミの声が聞こえ、背中に柔らかい胸の感触が当たる。
ウサギでは無く、バニーガールの姿をしたウサミに羽交い締めにされた。
少女の顔もアリスに変わり、エンジン全開のチェーンソーを振り上げる。
「え?え?なんで、何でだよ!」
俺の身体は竹を割ったように脳天から真っ二つにされ、右側の半身で左側の半身と見つめあった。
「うっうぅ・・・」
「兄さん?」
ここは、どこだ・・・病院か?
「良かった、兄さんったらコン詰めすぎて栄養失調で倒れたんだよ?漫画も大切だけど、身体はもっと大切にしなきゃダメなんだからね!」
ウサミと共に病院を後にした俺は、まだ意識がぼんやりしていた。
妙に額の辺りが疼く・・・なんでだろう。
「兄さん、顔色悪いけど大丈夫?」
「あぁ、何だが悪い夢を見ていたみたいだ」
家に帰り、自分の部屋へと向かう・・・なんだ?部屋から女の喘ぎ声がするぞ!?
ドアを開けると、全裸のアリスと抱き合っている男がいた。
男が驚いて振り向き、目が合った。
「「な、なんで俺がいるんだ!?」」
俺と俺が同時に驚きの声をあげる。
すると、アリスが微笑みながら言った。
「可哀想な私達に、神様が願い事を三つ叶えてくれると言ったの」
続けて、俺を背後から抱き締めながらウサミが耳元で囁くように言う。
「復讐と再生・・・そして」
最後に、二人は口を揃えて言った。
「「仲良く、半分子」」
俺は、もう一人の俺の額に目を向ける。
そこには、微かに縦に入った傷痕が残っていた。
不死戯のアリス・・・END
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