Lv.3 いその&なかじま

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Lv.3 いその&なかじま

「メモ帳の内容からして、恐らく朝比奈さんは漫画か小説なんかのキャラクターを考えているのかしら?」 帰宅した美亜は、薄いブルーのシルクのパジャマに着替えて自室のベッドに寝そべりながら礼治のメモに目を通していた。 「それにしても、結局メモの内容を全部見てしまうなんて・・・これって凄く悪い事だよね?どうしよう、いきなり朝比奈さんに嫌われてしまうかも知れない」 罪悪感と不安から頭を抱えた後、スマホを手に取る。 「メモ帳を落としたの、気づいてたら探してるかも知れない・・・ラインした方が良いかな?」 ラインする→メモ帳拾いました→中、見ましたか?→見ました→勝手に見るなんて最低ですね。 「なんて事になったら、どうしよう!」 これまでの人生で、こうも独り言を言いながら悩んだのは美亜にとって初めての事だった。 「ラインするの、怖いな・・・でも、漫画とか小説とかを書いているなら素敵だな・・・もし、私が死んでもキャラクターとして出して貰えれば存在が残るような気がする」 親しくなれば、そんなお願いも聞いてくれるだろうか? しかし、メモを盗み見した事が知られたら親しくなるどころでは無い。 「どうしよう・・・見てないって嘘をつく?でも、そうしたらお願いをするきっかけがなくなりそうだし・・・」 悩んでいるうちに、もう深夜1時が過ぎていた。 「はぁ・・・もう、こんな時間なんだ。今、ラインするのは諦めて、もう寝よう」 起床、身支度、制服のブレザーに着替え、食事を済ませ学校に向かう為に車に乗り込む。 美亜の通っている高校は名門の私立高校で男女共学である。 過去に何度も告白された経験はあったが、その時は恋愛に全く興味がなかった為、全て断っていた。 校門の前で下車すると、美亜の事を待っていた二人の少女と挨拶をかわす。 「磯野(いその)さん、中嶋(なかじま)さん、おはようございます」 「おはよう、美亜様!」 「おはようございます。美亜様」 元気に挨拶をしたのが、磯野で丁寧な挨拶をしたのが中嶋である。 磯野は身長165cmのベリーショートヘアの切れ長な目をした美少女。 中嶋は身長150cmの黒渕眼鏡をかけたミディアムボブのストレートヘア一で一重目蓋だが目の大きな可愛らしい少女だ。 この二人は幼少から美亜と過ごしており、学校でのボディーガード的な存在である。 磯野はテコンドーやムエタイをベースとした蹴り技主体の格闘技を得意とし、中嶋は中国拳法の使い手である。 ちなみに、美亜自身も合気道の達人である。 いつものように学校生活を過ごす美亜だったが、どうにも礼治のメモの件でモヤモヤしてしまい授業に集中できないまま昼休みを迎えた。 いつもは昼食を学生食堂でとるのだが、美亜は二人に声を掛けて購買部でパンを購入し教室での食事に誘った。 「珍しい・・・と、いうか初めてですよね?教室で質素なパン買って食べるなんて」 「何か相談事でもあるのですか?」 「流石、中嶋さん。察しが良いですね。実は、二人にお伺いしたい事があって・・・」 美亜と付き合いが長い二人は、互いに顔を見合せた。 そして、磯野は驚きの表情で聞き返す。 「何でも自己解決できる美亜様が、私達に相談ですか!?」 「迷惑だった?」 中嶋は素早く首を横に振り答える。 「滅相も無いです!私達で良ければ、何でも聞いて下さい!」 今まで、美亜に頼られた事が一度も無かった二人にとっては嬉しい出来事だった。 そして、どんな深刻な内容かと内心、ドキドキしていた。 「例えば、人のモノを勝手に見てしまう行為についてどう思いますか?」 「スマホとかですか?それは、許せませんね!」 磯野は、もしかしてお父様にスマホ見られたのかな?等と思いながら率直な意見を述べる。 「故意であれば、許せないというのは磯野に同意しますね。偶然なら、謝罪したら許します」 中嶋も磯野と同じように家族にでもスマホを見られたのだろうと思いながら答えた。 もしそうなら、早めに仲直りして欲しいとも思った為、謝罪したら許すという意見も付け加えた。 二人の意見を聞いた美亜の顔から血の気が引き、涙ぐみながら深い溜め息を吐く。 それを見た二人は、美亜が見た側だと悟った。 「ま、まぁ・・・ちゃんと謝れば許しますよ!?うん、全然許す!」 「そうですね!私も磯野と同じ意見です!」 「お気遣いありがとうございます・・・やはり、怒りますよね。あぁ、どうしたら良いのかしら」 落ち込む美亜の姿を目の当たりにし、二人は再び顔を見合せる。 「ちなみに、誰のスマホを見ちゃったんですか?」 「スマホでは無いのですが、バイト先の先輩が落としたメモ帳を勝手に全部見てしまいました」 「ぜ、全部ですか!?それはまた、どうして?」 全面的にフォローしようとしていた磯野だったが、全部は流石に不味いだろ?と、内心引いていた。 「分別ある行動ができる美亜様が、一般の方のメモを全部見てしまったという事は・・・よほど興味深い内容だったんですよね?」 「そうなんです、中嶋さん!悪い事だと思いながらも、手が止まらなくて・・・これから、是非とも親しくなりたいと思っていたのに・・・きっと嫌われてしまうわ!」 涙ぐむ姿も、狼狽える姿も二人にとっては初めてであり「何とかしてあげたい」という気持ちにさせた。 「ハイ!美亜様、見た事を内緒にして返せばどうですか?卑怯かも知れませんが、嫌われるよりはマシかと」 「磯野、それだと美亜様の心中にしこりが残っちゃうよ!いっそ、正直に謝ってみてはどうですか?」 「中嶋、バイト先の先輩がどんな女の人かわからないのに危険すぎないか!?美亜様、話せば分かるような女性ですか?」 美亜は首を横に振り、うつむきながら言った。 「女性では無く、男性です」 「はぁー!?美亜様、男と親しくなりたいですか!?」 「ちょっと待って下さい!私達も立場上、聞き捨てなりません!」 二人に詰め寄られ、美亜は洗いざらい話をする事になってしまった。
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