Lv.4 カフェの出来事

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Lv.4 カフェの出来事

脳にある腫瘍の事は打ち明けず、留学前に恋愛経験をしたいという事だけを二人に伝えた。 立場的に二人との間に壁はあるものの、美亜にとっては幼なじみのような存在なので余計な心配はかけたくなかった。 美亜の話を聞き、中嶋は磯野に話を振る。 「磯野、彼氏いるよね?残念だけど、私は美亜様に良いアドバイスはできそうにないわ」 「い、磯野さん彼氏がいるの!?」 磯野に彼氏がいる事を初めて知った美亜は、驚きと共に期待が高まった。 そんな美亜の表情に気づき、磯野は苦笑いを浮かべる。 「そうは言っても、付き合い初めてまだ3ヶ月くらいだし喧嘩もした事無いからなぁ~お互い、ちょっとすれ違ったりした時は早めに謝るようにはしてるけど・・・」 「やはり、誠意を持って謝るしか無いですよね・・・」 「そうですね・・・そうだ!何か、先輩さんの好きなモノをお詫びにプレゼントするとかは?」 「昨日、ライン交換したばかりですし、全くわからないわ」 「それなら、当たり障り無いスイーツで良いのでは?甘いのが苦手かも知れないので抹茶系とかにしておけば無難かと」 中嶋の提案に頷く美亜、磯野は少し考えた後に美亜に問いかけた。 「美亜様、今日はバイトあるんですか?」 「今日はお休みですね」 「なら、あえて今日の先輩がバイト終わるタイミングで謝りに行きましょう!ついで感が無い方が誠意も伝わると思いますよ!」 「なるほど!本当に二人に相談して良かったわ・・・ありがとうございます」 深々と頭を下げる美亜に、中嶋は慌てて頭を上げるように言った。 「私達なんかに、勿体ない!でも、差し出がましいかも知れませんが、良かったら三人でラインのグループを作っておきませんか?何か困った事があればすぐに相談できるように」 中嶋の提案に美亜の表情が明るくなり、笑顔が溢れた。 「助かります!では、早速グループを作りましょう!」 それから、下校の時間となり美亜はいつもと違い車に乗り込む前に二人に大きく手を振った。 笑顔で美亜を見送った二人、中嶋は真剣な眼差しを磯野に向ける。 「美亜様の言っていた先輩がどんな人か気になるわ。ろくでもないヤツなら、成敗しないと!」 「まぁ、私は護衛の時間外に美亜様が何をしようと構わないけど」 あくまで美亜を護衛対象として見ている磯野と、本気で美亜の身を案じる中嶋には明確な温度差があった。 中嶋は得体の知れない先輩に対して警戒心を強める。 そんな事は露知らず、当の先輩こと礼治は仕事の休憩中にスタッフルーム内にメモ帳が落ちていないか探していた。 落とすとしたら、ここくらいしか無いと思うんだが・・・誰か拾ってくれたのだろうか? スタッフルームには男女兼用のロッカー、四角形のテーブルと椅子が四つ、スタッフ教育に使われる資料が並んでいる本棚くらいしかない。 まぁ、ネタ帳みたいに見られたらヤバい内容でも無いし焦って探す事も無いか。 そう思いながら、仕事に戻り・・・21時を迎え退勤しようとスタッフルームに入る。 すると、そこには紙袋を持った私服姿の美亜がいた。 薄いブラウンのハーフコート、中は白、外はグレーのジャンパースカートを着ている。 「こ、こんばんは!」 「皇さん?こんばんは」 今日は休みだし、この時間は高校生がアルバイトできない時間だが? どうしてここにいるのか、疑問に思っている礼治に美亜は少しうつむきながら言った。 「良かったら、近くのカフェで少しお話しませんか?」 「へ?あぁ、構いませんが・・・」 カフェに向かう途中ですれ違う人達が美亜と隣を歩く礼治に視線を送る。 うわ、視線感じる・・・どう見ても不釣り合いなのは俺だって自覚してるから、そんな目で見るなよ。 いつもと同じ黒い無地のスカジャンとジーンズ姿の礼治はお世辞にもお洒落とはほど遠い。 一方の美亜は、シンプルでゆったり感がある装いの中にも一般人とは別格の上品なオーラみたいなモノを感じさせる。 こじんまりとした近くのカフェに入り、とりあえずコーヒーを頼む。 店内の客も美亜と礼治に視線を向けているのが感じられた。 礼治は、できるだけ早目に立ち去りたいと思いながら話を切り出す。 「あの、皇さん。お話とは?」 「実は・・・これをお返ししたくて」 美亜はポケットから取り出した礼治のメモ帳をテーブルにそっと置いた。 「あ、皇さんが拾ってくれてたんですね。ありがとうございます」 笑顔で礼を述べる礼治に対して、美亜は表情を曇らせ、うつ向いたまま口を開く。 「実は、勝手に中を見てしまいました・・・本当にごめんなさい!」 誠意を伝えるべく、頭を下げ大きな声で謝罪する美亜だったが周囲の注目を浴びてしまい礼治は慌てふためいた。 「す、皇さん!そんなに謝らなくて良いですから!顔を上げて下さい」 顔を上げた美亜は涙ぐんでおり、更に礼治を慌てさせる。 「みられて困るモノじゃないし、全然大丈夫ですから!」 「でも、私・・・見出したら面白くて結局、全部目を通してしまいました。人様のモノを許可無く勝手に見るなんて最低です」 今にも、大きな瞳から涙が溢れてしまいそうな美亜にどう接すれば良いかわからない礼治は、とにかく泣かせないようにと頭をフル回転させる。 そこで出た言葉が・・・ 「面白かったですか!いや、それは自信がつきます!見てくれてありがとうございます!」 「え?」 「いや、僕みたいな物書きにとっては、見て貰った内容が面白かったなら、これほど嬉しい事は無いですよ!いや、ありがとう!」 「そういうものなんですか?私、絶対軽蔑されて嫌われてしまうと思っていました・・・あ」 安心から美亜の瞳から涙が溢れて結局、泣いてしまった。 ハンカチもティッシュも持ち合わせていない礼治を見かねたカフェの店主がコーヒーと一緒にボックスティッシュを持ってきてくれた。 「あ、ありがとうございます」 店主は礼治にニッコリ微笑み、立ち去った。
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