Lv.5 抹茶プリン

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Lv.5 抹茶プリン

暫くして落ち着いた美亜に、礼治はメモのどこが面白かったのかを尋ねた。 「この人物たちが、どんな物語に登場するのか想像するのが楽しくて!このキャラクターはこのキャラクターとは合いそうだけど、このキャラクターとは仲良くできないだろうな、とか・・・あの、朝比奈さんは小説や漫画を書いているんですか?」 泣き顔から一転、笑顔で話をする美亜を見て安心した礼治は美亜の問いに答える。 「小説を書いてます。とは言え、デビュー作も大して売れなくて、うだつの上がらない・・・」 「やっぱり、そうなんですね!」 「ちょっ!?皇さん、声が大きい!」 美亜は礼治が小説家だとわかり、一気にテンションが上がった。 「どんな役でもかまわないので、小説に私を出してくれませんか?」 「え?」 しまった。テンション上がりすぎて、いきなり不躾なお願いをしてしまった。 良く良く考えれば、登場人物が増えたら話の内容だって変化するだろうし余計な仕事を増やすだけだ。 「す、すいません、朝比奈さん。今のは忘れて・・・」 「皇さんをモデルにした小説か・・・実在する人をモデルにして小説を書いた事は無いな。良いですよ、ホラー小説で良ければ」 「良いんですか!?本当に良いんですか!?ありがとうございます!」 一喜一憂する美亜を見て、見た目は品位を漂わせた美しい女性でも中身はまだまだ子供なんだな。と、礼治は微笑ましさを感じていた。 「ホラー小説家さんなんですね。惨殺されちゃうのかなー!楽しみだなー!」 「ん~死んじゃうかも知れませんが、せっかくなのでヒロイン役をお願いします。あと、こういう状況なら美亜さんならどうするかとか、お伺いしても良いですか?」 「ヒィ!ヒ、ヒロイン!?」 悲鳴にも似た驚き声が、またしても店内に響く。 「す、皇さん!声が大きいですよ!」 「ご、ごめんなさい!私、びっくりして嬉しくて、何だか感情が上手くコントロールできてないみたい・・・私で良ければ、何でも聞いて下さい!」 「はい、そうしたら後で簡単なプロフィールをラインして頂けますか?ご両親が心配するでしょうし、そろそろ行きましょう」 二人はコーヒーを飲み終え、店を出る。 美亜は持参した紙袋を礼治に差し出した。 「これ、お詫びの印で用意した抹茶プリンです。良かったら、食べて下さい」 「え?お詫びって・・・何のですか?」 「勝手にメモ帳を見たお詫びです」 「いや、それは受け取れないですよ。僕からしてみればキャラ作りを手伝って貰える訳ですから、逆に何かお礼したいくらいです」 「いえ、それでは私の気が済みません!受け取って下さい」 「いえ、僕なんかに勿体ない。ご家族で食べて下さい」 なんだか、押し問答になりそうだ・・・そう思った美亜は礼治に提案した。 「わかりました。なら明日、仕事終わったら一緒に食べましょう!二つの味が楽しめるらしく二つ入ってますから。これ、預かっておいて下さい」 「一緒にですか!?」 「先生、約束ですからね。勝手に一人で食べちゃダメですよ?」 どこか悪戯な表情を感じさせる笑みを浮かべ、美亜は礼治に紙袋を持たせて立ち去ちさろうとした。 「先生っ?あ、待って皇さん。駅まで送ろうか?」 唐突な先生呼びに戸惑いながら、礼治は美亜に声を掛ける。 「大丈夫ですよ、お迎えが来るので。では、また明日!」 礼治は美亜の後ろ姿を見送り、紙袋を持ってアパートに向けて歩き出す。 「見た目と中身にギャップがあるっていうのは、思った以上に面白いな。リアリティがあるキャラ作りが出来そうだ」 小説への創作意欲が高まる礼治に対して、迎えの車に乗った美亜は気持ちは妙に落ち着かなかった。 朝比奈先生、優しかったな。なんだか、もう少しお話したかった・・・名残惜しいって、こういう気持ち?もしかしたら、私・・・恋し始めているのかしら? そう考えると、体温の高まりを感じると共に明日が楽しみになってきた。 プリン、どこで食べようかな。そういえば、先生の住まいはご自宅かな? 帰宅後、落ち着いてから美亜は初めてのラインを送る。 「朝比奈先生のお住まいは、ご自宅ですか?」 暫くして、返信が返ってくる。 「アパート暮らしです」 「それなら、明日は先生のアパートでプリンを食べましょう!」 礼治は美亜のラインを見て、ギョッとした、 「マジか・・・部屋、そんなに汚くは無いと思うけど掃除しておくか。それにしても、高そうな抹茶プリンだな」 抹茶プリンには『おこい』『おうす』とラベルが貼られており、色からして濃さが違う事が伺えた。 何となく気になり、あまり良い事では無いのだが興味が湧いたので調べてみる。 そして、金額を見て再びギョッとした。 「え?この抹茶プリン、滅茶苦茶高額じゃないか!?これは、できる限りのおもてなしをしないと・・・それにしても、皇さんはちょっと世間知らずなお嬢様か何かなのかな?お金に困ってるようには見えない装いだったし、いきなり良く知らない男性の部屋を訪ねるという思考も警戒心が低くすぎて危ういような・・・ホラーなら、絶対に危険な目に合うタイプだな」 美亜に芽生えた小さな恋心に、礼治は全く気づいていなかった。
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