Lv.6 ひなあさせんせい

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Lv.6 ひなあさせんせい

金曜日の朝、少し頭痛がしたので美亜は処方された薬を飲んで登校し、昼休み中に昨日の出来事を磯野と中嶋に伝えた。 「かくかくしかじかで、朝比奈先生はとっても優しかったわ」 美亜の屈託の無い笑みを見て、磯野と中嶋は表情を曇らせた。 「美亜様、朝比奈先生が優しかったのは何よりですが・・・出会って間もない男性の家に友人とも言えない関係で訪問するのは、些か軽率では?」 心配する中嶋を他所に美亜は笑顔で答える。 「大丈夫です!ちゃんと、遊び道具も持参しますから先生を退屈させたりしないわ」 やば、意味が伝わって無い・・・脳内が花畑化してる? 冷静沈着、頭脳明晰な美亜は見る影も無い浮かれっぷりに磯野は苦笑いを浮かべて声を掛ける。 「失礼を承知で、ストレートに言いますね。一部の男性は『部屋に自分からくる女はエッチOK』と解釈する場合があります。男性が綺麗な女性に優しいのは、当たり前の事なので朝比奈先生を特別視するのは危ないと思います」 磯野の助言を聞き、美亜はようやく我に帰った。 「そ、そんなふしだらな事をするつもりは無いですよ!?」 「美亜様に無くても、朝比奈先生にあったらどうするんですか?ここは一旦、持ち込みOKのカフェとかでプリンを食べながら小説の話をするくらいに止めてみては?」 磯野の助言に中嶋も無言で頷く。 しかし、美亜にはプランがあったので礼治のアパートをどうしても訪問したかった。 「ううう・・・でも、最新の家庭用VRマシンとソフトも用意しているから、アパートで一緒に遊びたいのよ!」 「VRマシンを持参するつもりだったんですか?美亜様、距離詰めるのに必死ですね・・・」 ちょっと呆れた磯野と中嶋に対し、美亜は閃いたと言わんばかりの笑顔で二人に言う。 「そうだ!二人も一緒なら大丈夫よね?」 まさかの提案に、磯野と中嶋は顔を見合わせる。 「私は・・・予定がありまして、ちょっと・・・」 磯野は彼氏と約束があり、プライベートな時間を割くのには躊躇いがあった。 磯野にとって美亜は大切な護衛対象であり、長年一緒にいる事もあって、それなりの情もある。 とはいえ、学校から帰宅するまでの護衛が磯野の仕事であり、その後まで行動を共にしたいとは思っていない。 できれば、彼氏との時間を優先したいのだ。 磯野の胸中を察した中嶋は溜め息を吐き、軽く眼鏡のズレを直しながら言う。 「なら、私がお供します」 「ごめん、中嶋・・・頼んだわ」 中嶋は磯野と比べると美亜に対しての気持ちが強い。 立場に違いがあるものの、仲良くなれたら良いなと常々思っていた。 故に仕事をより円滑にする理由もあるが、ラインのグループを作る提案をしたのである。 美亜は礼治にラインをし、礼治は休憩中に内容を確認した。 「お友達とくるのか・・・まあ、二人きりよりは良いかな?いや、お茶とかも用意する分が増えるから良いとも言えないか」 そうこうしているウチに美亜もコンビニに出勤し、礼治に笑顔で挨拶をする、 「おはようございます、先生!」 「あの、皇さん・・・呼び方をとやかくは言いませんが、仕事中は先生呼びは止めませんか?」 「そ、そうですよね!気遣いが足りなくてすいません・・・朝比奈さん」 仕事を覚える早さから頭は良いと思うが、やはり世間知らず感が滲み出ている。 合間、合間に会話をしつつ礼治は一緒に来る友人について尋ねた。 「今日、ご一緒する友達はどんな人なんですか?」 「幼い頃から、私が学校にいる間の護衛をしてくれている方です」 美亜の話を聞いた礼治は、いまいちピンとこなかったが護衛というキーワードから考えを巡らせた。 もしかして、世間知らずのお嬢様っぽい娘じゃなくて本当にお嬢様なのか? その後、来客が増え仕事も忙しくなり結局、尋ねる事は出来ずに勤務を終えた。 二人で店から出ると、ちょうど中嶋も店の前に到着したところだった。 「紹介します!私の護衛をしてくれている、中嶋 広恵(ひろえ)さんです」 中嶋は礼治に向かって、一礼して名前を述べる。 「中嶋 広恵です。宜しくお願い致します」 「朝比奈 礼治です。こちらこそ、宜しくお願いします」 礼治のアパートに向かおうと歩きだすが、背後から何やらガラガラと音が響く。 「皇さん、そのキャリーケースは?」 振り向いた礼治の視界に入ったのは、大きめのキャリーケースを引く美亜の姿だった。 「ふふふ、それは後でのお楽しみです!」 中嶋は、長年一緒にいるが見たことの無い美亜の笑顔に少し戸惑いながら礼治に視線を向ける。 お洒落とは程遠い服と髪型、何より目付きが悪い。 丸メガネじゃなければ、思わず目を逸らしたくなる。 こんな男が気になっているなんて、美亜様のセンスを疑うわ。 そんな事を思いながら、中嶋は歩を進める。 礼治のアパートに到着し、美亜と中嶋は部屋を見渡す。 ソファー、ちゃぶ台、座蒲団、パソコンデスクにノートパソコンとチェアー、ベッド、本棚、24インチのテレビ、装飾品は1つも無い。 ショボい部屋・・・そう思いながら、中嶋は本棚に目を向ける。 そこに並んでいる本を見て、思わず声をあげた。 「これ、ヒナアサ先生の異常者事変!?」 「え!?ご存知なんですか?僕のデビュー作なんですよ」 ヒナアサ・・・朝比奈? 中嶋はゲーム、漫画、小説等のインドア系の趣味があり、携帯小説サイトにハマっていた時期もあった。 当時の中嶋には、エログロジャンルだった礼治の作品は刺激的で応援コメントなんかも送った事があるほど好きな作品だった。 さっきまで、何の興味も無かった礼治に対して中嶋の胸が急に高まった。
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