Lv.7 VRゲーム

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Lv.7 VRゲーム

嘘でしょ?あの、ヒナアサ先生に直接お会いできるなんて! 中嶋にとって、ヒナアサ先生は思い入れのある小説家だった。 驚きと困惑から、中嶋は急に饒舌になる。 「私、この作品大好きでした!特に中盤の主人公とヒロインの形式的な肉体関係が変化し始めた、身体は繋がっていてもお互いの心がわからなくてモヤモヤした感じの描写が印象的で!」 「あのシーンは、丸一日かけて仕上げたんですよ。いや、こんなところで読者さんに会えて感想聞けるなんて・・・ありがとうございます」 急に近づいた二人の距離に、美亜は何だかモヤモヤした気持ちになった。 「なんだか、二人で盛り上がってズルいです!私も先生の作品見たいので貸して下さい!」 唐突な美亜の言葉に対して、礼治は思いを巡らせる。 エログロ描写が多いから、皇さんには刺激が強すぎるのでは?普段なら、色々な人に読んでもらいたいと思うところだが・・・何だか躊躇してしまう。 「あ、美亜さん!それより、こないだのプリンが二つしかないです!」 礼治は話を逸らし、美亜をじっと見つめる。 急に正面から見つめられ、思わず目を逸らす美亜を見て、礼治も視線を移した。 「す、すいません・・・なんだか、急に見つめられたら恥ずかしくて」 「こちらこそ、すいません。皇さんと中嶋さんで食べますか?」 そんな二人を見て、今度は中嶋が面白く無いといった表情で言う。 「私にはお構い無く、お二人でお食べ下さい」 「あ、そうだ。それなら、中嶋さんと私で半分子しましょう!」 「いいんですか、美亜様?」 「勿論!今日もお世話をかけましたし、せめてもの御礼です」 礼治は二人にお茶を出し、自分の作品の話に戻らないように立て続けに話題を変えた。 「さっきから気になっていたんですが、そのキャリーケースには何が入っているんですか?」 「ふっふっふっ・・・開けてビックリ、家庭用VRゲーム機です!」 VRゲーム機とは? V=バーチャル R=リアリティーの略で、視覚・聴覚に働きかけ、あたかも存在するかのような立体的仮想空間を生み出すゲーム機である。 「こ、こんな高価なモノを持ってきたんですか!?」 驚く礼治を見て、中嶋は瞬時に察した。 「先生、美亜様は世界的にも有名なスメラギ・エンタープライズの社長令嬢ですから、このくらいは朝飯前です」 俗世に疎い礼治でも知っている、日本を代表する大企業の社長令嬢・・・マジか、という思いと道理で、という思いが交差する中、とんでもない女性が部屋にいるのだと思うと、額に汗が浮き始めた。 テキパキと動き、ゲーム機をセットした美亜は、専用のゴーグルと両手につけるグローブ状のコントローラーを礼治に差し出した。 「最大4人で出来るゲームなんですが、まずは先生からどうぞ!」 「は、はい・・・ゲームか、ゲーム自体久しぶりだしVRゲームなんか、初めてなので緊張するなぁ」 緊張するとは言ったが、どんなモノかは興味があった。 礼治は美亜から簡単な操作方法を聞き、美亜と中嶋に見守られながらゲームを開始した。 「ちなみに、どんなゲームなんですか?」 「ふっふっふっ、先生の好きなジャンルですよ!何だと思いますかぁ~?」 美亜の言葉を聞き、中嶋はホラー系だな。と、容易に想像できたが濁しているので、余計な事は言うまいと口をつぐむ。 中嶋はゲーム機にセットされたソフトのパッケージを手に取った。 ソフトは『骨の森』いかにもホラーといった感じのタイトルだ。 ゲームを嗜む中嶋だったが聞いたことの無いタイトルだった為、美亜に問いかける。 「もしかして、まだ発売されてないソフトですか?」 「流石、中嶋さん。お詳しいですね!このソフトは来月発売予定の最新作で、某雑誌やオンラインレビューではホラージャンル最高得点の話題作なのです!」 結局、勿体ぶって「当ててみて」感を出していたにも拘わらず自らホラーと言ってしまった。 「ホラーか・・・僕、あまりホラー系見ないようにしてるんですよね」 「そうなんですか?ホラー系の作者さんは、ホラーやサスペンスファンだとばかり思ってました」 中嶋の質問に対し、礼治はゴーグルを着けながら答える。 「影響を受けることも、大切かも知れませんが・・・オリジナリティを重視したいので、ほとんど見たこと無いですね」 「へぇ~逆に、想像力だけで物語を作ってるのは凄いですね」 二人のやり取りを見ながら、美亜は顔を膨らます。 「また、二人だけで話をしてる!」 なんだか、美亜様って普段はしっかりしてるけど、意外と子供だな。 中嶋が見慣れない美亜の姿を微笑ましく思う中、ゲームが始まった。 骨の森は、脱出困難な環境で正体不明の存在から逃亡する『ありがち』な設定のゲームで4人の主人公から一人を選んで進めていく、マルチシナリオとなっている。 礼治はオールラウンドサークルに所属する男子大学生を選び、物語を進めて行く事にした。 3Dの画像はクオリティが高く、映し出されるキャラクターも非常にリアルだ。 首を動かすと視点が変わり、腕を左右に振ると前進する。 グローブタイプのコントローラーは質感表現も可能にし、指で様々なアクションを行える。 VR機とテレビを繋げると、テレビに礼治のプレイしている映像が映るが、もちろん立体映像では無い。 美亜と中嶋は、テレビ画面で観覧する。 礼治の操る男子学生、名前はプレイヤーが変更することもできるので朝比奈にちなんで『アサヒ』にした。 アサヒは大学二年生で、同じサークルに所属する年下の女性に片想い中だった。 今回のサークル活動はキャンプで、メンバー十数人が参加することになっており、その参加者名簿には意中の彼女の名前があった。 キャンプには興味が無かったが、仲良くなるきっかけを作りたいアサヒはキャンプに参加する事にした。
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