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刹那の反省の後──
庸一郎は、ふと渋面を解いて穂香を見詰めた。
「すまない…君ばかりに押し付ける事じゃなかったね。二人とも僕らの子なのに。父親として、もっと気を配るべきだった。」
「あなた…」
夫の素直な謝罪の言葉に、穂香は静かに首を横に振って答えた。
「そんな風に仰有らないで。貴方は、お仕事がお忙しいのだから…。その分、私がしっかり家庭を守らなくてはなりませんのに…ごめんなさい、至らなくて…」
自分を責める妻が、尚更、愛しくて──庸一郎は、思わずその細い肩を抱いた。
「…謝らないで、穂香。君一人に負わせるつもりはないよ。子供の教育は、親の努めだからね。なんでも相談してくれ。僕は正直、子育てがどういうものなのか、良く解らないんだ。」
「えぇ…有難う。」
寄り添う穂香の髪から、甘やかな花の香りがする。それだけで、庸一郎の波立った感情は、凪いだ。
この通り──夫婦仲は円満である。
これに勝る幸せなど無い。
どの家庭にも、悩み事の一つや二つは有る。
事の大小に依らず、そうした試練を共に乗り越えてこその夫婦である。
自分の抱えるものなど、贅沢な悩みだ。世の中には、もっと深刻な家族関係の者もいる。
愚かな感情で、この幸せを手放してはならない。
庸一郎は、固く自らに言い聞かせた。
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