第一話 水ノ記憶

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 刹那の反省の後── 庸一郎は、ふと渋面を解いて穂香を見詰めた。 「すまない…君ばかりに押し付ける事じゃなかったね。二人とも僕らの子なのに。父親として、もっと気を配るべきだった。」 「あなた…」  夫の素直な謝罪の言葉に、穂香は静かに首を横に振って答えた。 「そんな風に仰有らないで。貴方は、お仕事がお忙しいのだから…。その分、私がしっかり家庭を守らなくてはなりませんのに…ごめんなさい、至らなくて…」 自分を責める妻が、尚更、愛しくて──庸一郎は、思わずその細い肩を抱いた。 「…謝らないで、穂香。君一人に負わせるつもりはないよ。子供の教育は、親の努めだからね。なんでも相談してくれ。僕は正直、子育てがどういうものなのか、良く解らないんだ。」 「えぇ…有難う。」 寄り添う穂香の髪から、甘やかな花の香りがする。それだけで、庸一郎の波立った感情は、凪いだ。 この通り──夫婦仲は円満である。 これに勝る幸せなど無い。 どの家庭にも、悩み事の一つや二つは有る。 事の大小に依らず、そうした試練を共に乗り越えてこその夫婦である。 自分の抱えるものなど、贅沢な悩みだ。世の中には、もっと深刻な家族関係の者もいる。 愚かな感情で、この幸せを手放してはならない。  庸一郎は、固く自らに言い聞かせた。
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