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「庸一郎さん、お支度は調いました?」
穂香の声に急かされる様に、庸一郎は部屋の襖戸を滑らせた。廊下では、そわそわと両手を擦り合わせながら、和服の妻が立っている。
いつになく艶やかなその姿に、庸一郎は、思わず息を飲んだ。
高く結い上げた髪。
白い項に掛かる、後れ毛。
春らしい、白地に梅の枝を描いた、手描き友禅の訪問着が、彼女持ち前のはんなりした魅力を引き立てている。
伊達衿に添えた濃い紅色が、乳白の肌に映えて、我が妻ながら、溜め息が出る程に美しかった。
女盛り──
近頃の穂香は、匂やかな色香が増して、より一層、華やいで見える。
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