第一話 水ノ記憶

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「あぁ…良く似合うね、穂香。綺麗に支度が出来たじゃないか?」  そう云うと、穂香は『まあ!』と声を挙げて、頬を(あけ)に染めた。 「嫌です、庸一郎さんたら! 私ではなくて、貴方のお支度の事ですのに。…ほら、衿元が開いてしまって。きちんと御召しになりませんと──今日は、甲本家に伺うのですから。」  直ぐに照れ隠しと解る仕草で、穂香は、夫の襟元を合わせ直した。耳を赤くして、せっせと世話をやく妻は、いつまでも少女の様に可愛らしい。  結婚して、十五年にもなろうと云うのに── 未だに妻を愛しく思うのは、自分だけなのだろうか? 親同志が定めた(えにし)だったが、この結婚は成功だったと、庸一郎は、つくづく思う。
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