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「あぁ…良く似合うね、穂香。綺麗に支度が出来たじゃないか?」
そう云うと、穂香は『まあ!』と声を挙げて、頬を朱に染めた。
「嫌です、庸一郎さんたら! 私ではなくて、貴方のお支度の事ですのに。…ほら、衿元が開いてしまって。きちんと御召しになりませんと──今日は、甲本家に伺うのですから。」
直ぐに照れ隠しと解る仕草で、穂香は、夫の襟元を合わせ直した。耳を赤くして、せっせと世話をやく妻は、いつまでも少女の様に可愛らしい。
結婚して、十五年にもなろうと云うのに──
未だに妻を愛しく思うのは、自分だけなのだろうか?
親同志が定めた縁だったが、この結婚は成功だったと、庸一郎は、つくづく思う。
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