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姫宮庸一郎は、由緒ある真言宗の寺の住職である。思慮深く、物静かな男だ。
一方で、仏道に於いては峻厳である。一度び修行に入れば、生命のギリギリまで己を責め窶す程、没頭するのだ。
自らに課すその厳しさが、時に、二人の息子達に対する無言の圧力となっているのだが…本人は、それにまるで気付いていない。
ともすればギスギスしがちな家庭を、明るく健全に保っていられるのは、妻・穂香のお陰であった。彼女の慈愛と寛容が、姫宮家を優しく包んでいる。
嫋やかで美しい穂香。
だが、彼女には、もう一つの顔があった。
穂香は、見た目に反して剣の達人である。
長男・蒼摩、次男・冬摩の剣術指南をしているのも彼女だ。
剣術は、姫宮家にとって、必ず習得しなくてはならないものの一つである。
その理由は、彼らの特殊な生業に由来していた。
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