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そんな彼等にとって、今日はとても大切な日だ。一座の総元締めである甲本家で、特別な法要が執行されるのである。
すっかり身支度を整えた庸一郎は、居間へ続く長い廊下を足早に進みながら、後ろを歩く妻に尋ねた。
「子供達は?」
すると穂香は、僅かな苦笑を履いて答えた。
「冬摩は居間に居りますが、蒼摩は──」
「まだ部屋に籠っているのか?」
「えぇ…」
庸一郎の口から、思わず知らず溜め息が洩れる。
長男の蒼摩は、小学六年生。
人付き合いが苦手で、家族との会話も少ない。当然ながら、学校でも孤立した存在だ。担任の若い女教師に依れば、彼の授業態度は極めて真面目で、成績も申し分ないという。
特に、虐めがあったという報告もない。
なのに、クラスメイトが声を掛けても、決して輪の中に入ろうとしないのだ。休み時間は、いつも独りで教室の片隅にいて、静かに本を読んでいるという。
頑なに他者を寄せ付けようとしない蒼摩。
そんな彼を、皆が遠巻きにしている。
『馴染めない』のではない。
『馴染もうとしない』のだ。
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