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「一体、何が気に入らないんだ。」
憤然と吐き捨ててから、庸一郎は妻に訊ねた。
「学校で何かあったんじゃないのかい?」
「そんな事は…」
「蒼摩は何か言ってなかった?」
「何も…。学校から帰ると直ぐに、部屋に篭ってしまって─…」
「話してないの?」
「ごめんなさい、今朝も未だ顔を会わせていないの。声は掛けたのだけれど…返事が無くて。」
曖昧に語尾を濁す穂香。
彼女のそうした態度に、庸一郎は、つい苛立って声を荒げた。
「駄目じゃないか、君がそんな事では! 母親ならば、しっかり子供達を見ていてくれないと!」
珍しく強い言葉で、妻を責める庸一郎。
穂香は、ビクリと身を強張らせて答える。
「ごめんなさい、庸一郎さん。私が行き届かないばかりに…」
妻の声が僅かに震えている事に気付いて、庸一郎は我に返った。
穂香を責めても仕方がない。
仕事を理由に、彼女に全てを任せきりにしていた自分にも非がある。今の発言は、明らかな暴言だ。
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