第一話 水ノ記憶

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「一体、何が気に入らないんだ。」  憤然と吐き捨ててから、庸一郎は妻に訊ねた。 「学校で何かあったんじゃないのかい?」 「そんな事は…」 「蒼摩は何か言ってなかった?」 「何も…。学校から帰ると直ぐに、部屋に篭ってしまって─…」 「話してないの?」 「ごめんなさい、今朝も未だ顔を会わせていないの。声は掛けたのだけれど…返事が無くて。」  曖昧に語尾を濁す穂香。 彼女のそうした態度に、庸一郎は、つい苛立って声を荒げた。 「駄目じゃないか、君がそんな事では! 母親ならば、しっかり子供達を見ていてくれないと!」  珍しく強い言葉で、妻を責める庸一郎。 穂香は、ビクリと身を強張らせて答える。 「ごめんなさい、庸一郎さん。私が行き届かないばかりに…」  妻の声が僅かに震えている事に気付いて、庸一郎は我に返った。 穂香を責めても仕方がない。 仕事を理由に、彼女に全てを任せきりにしていた自分にも非がある。今の発言は、明らかな暴言だ。
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