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四.祝いは続く
今日も一陣の風が吹く。
『おめで隊』
又の名を、『剣士精鋭部隊』
後から聞いた話によれば
剣士隊の中でもその精鋭部隊となる者は、
必ず先にこの『おめで隊』に数年間入隊する。
勿論これは極秘だった……らしい。
早く言えよ。
まぁ、今にして思えば、俺の身体能力を生かしたこの曲芸は
剣術に活かすことができる。
又、踊るように舞う三郎の舞、
妖艶に奏でる歌子の鳴り物。
共に戦闘では相手を迷わす武器になるだろう。
とにかく、舞の三郎、鳴り物の歌子、曲芸の俺、剣介は
初めから選び抜かれた剣士隊の精鋭部隊だったということだ。
そして、代々その剣士精鋭部隊を鍛え上げる者こそ、妖切乱丸。
元剣士精鋭部隊隊長。
今では、おめで隊話術の乱丸。
「さあ、行くぞお前ら!」
そんな、あの世へ旅立ったと思った師匠は今日も元気だ。
そりゃそうだ。
後から聞いたら、
「アホ、俺は元剣士精鋭部隊長だぞ、あんくらいで死ぬものか。ガハハハッ!」
と、自分で口を滑らした。
それは、どういう事か俺が問いただしたのは言うまでもない。
「今日はあの足高村の祈願祭じゃ。
田畑に芽がでたらしいぞ。
精一杯お祝いして、村の平和を願おうぞ!」
「はーい。」
「あぅー。」
法被に祝いのぼり、いつものように俺たちが祝い支度を始めた時だった。
「おい、ちょっとこい。」
師匠が手招きをして俺を呼ぶ。
「なんすか?」
「剣介、相手の事を認め祝ってやる気持ち。これからもその心を忘れるんじゃないぞ。これだけが人の命を守る剣士のお前に最後に言いたかったことじゃ。」
「えっ?」
「妖の力も日に日に強くなっている。
一日でも早くお前の力を剣士隊に貸してやれ。」
「えっ……。」
「まぁ本来なら数年間はおめで隊で心技体を鍛え上げ、剣士精鋭部隊に入隊するのが規則じゃが、お前だけは特別じゃ。
これからも頑張るんじゃぞ。今日がお前にとって最後のおめで隊じゃ。」
師匠の、いや妖切乱丸の真面目な顔を、俺はその時初めて見た。
「さぁ、お前らいくぞ!」
師匠……。
ふいに、
「剣兄……。相談あるんじゃが。」
と三郎が悩ましい目でこちらを見ている。
「なんじゃ、もじもじして言うてみい。」
「おら、嫁子さもらう。」
「はぁーー?!」
「おらたち祝ってけれ……。」
隣にいるのは、頬を夕焼けのように染めた蝶番歌子。
「おめえらいつの間に!チョメチョメしやがって!」
仕方ねえなぁー。
ふっと笑った俺は、祝いのぼりをかついだ。
「えーい、婚式はいつだ、俺が盛大に祝ってやる!」
「剣兄ありがとう!」
声を出せない歌子の口元も「ありがとう」と
動いた気がした。
おめでとう、三郎、歌子。
そして、俺は陽気に前を歩く師匠に向かってこう言った。
「師匠、間違っちゃ困るぜ!
俺は一刀剣介!
これからも、おめで隊曲芸隊長だ!」
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