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こんなはずじゃない……。
こんなはずではなかった……。
いつ、どこで、どう間違ったのか。
誰か俺に教えてくれ。
鮮やかな妖刀一文字を握る予定だった
俺の右腕には、
別の意味で鮮やかな祝いのぼり。
又、甲冑に身を包むはずだった体には
荒れ狂う波の模様に鶴亀が踊る法被。
その中心には『祝』の一文字。
違う。違う。
これは違う。
悪い夢なら醒めてくれ。
「おーい!早よこんか!」
先を急ぐアホ師匠の怒声が聞こえる。
「剣兄~!はやく、はやく~。遅れるよ。」
うるせぇよ。風が吹いたら今にも倒れそうなひょろ男め。
「あぅー。」
そんな目で俺を見んなよ、ちび女。
ちっくしょー!
いやだ、いやだ。
何で俺が剣士隊の出陣式を祝いに出向かにゃいかんのじゃ。
本来なら俺が向こうにいるはずだったのに。
目に浮かぶぜ。
剣士隊の野郎共の嘲るような眼がよぅ。
ゴロゴロと辺り一面、河原の石のように転がっているのが。
「哀れなもんだな、剣介のやつも……。」
「あれだけの剣術の使い手がまさかな。」
やめろ、やめろ。
そう、そのまさか。
十五の春。
あの隊列発表時を思い出す。
「一刀 剣介!
お主を『おめで隊』の曲芸隊長に任命する!」
その時の驚きは天地がひっくり返したところではない。
一気に春を通りこして極寒の冬山に叩きだされた感じ……。
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