一.始まり~祝いめでた~

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こんなはずじゃない……。 こんなはずではなかった……。 いつ、どこで、どう間違ったのか。 誰か俺に教えてくれ。 鮮やかな妖刀一文字(ようとういちもんじ)を握る予定だった 俺の右腕には、 別の意味で鮮やかな祝いのぼり。 又、甲冑に身を包むはずだった体には 荒れ狂う波の模様に鶴亀が踊る法被(はっぴ)。 その中心には『(いわい)』の一文字。 違う。違う。 これは違う。 悪い夢なら醒めてくれ。 「おーい!早よこんか!」 先を急ぐアホ師匠の怒声が聞こえる。 「剣兄~!はやく、はやく~。遅れるよ。」 うるせぇよ。風が吹いたら今にも倒れそうなひょろ()め。 「あぅー。」 そんな目で俺を見んなよ、ちび女。 ちっくしょー! いやだ、いやだ。 何で俺が剣士隊の出陣式を祝いに出向かにゃいかんのじゃ。 本来なら俺が向こうにいるはずだったのに。 目に浮かぶぜ。 剣士隊の野郎共の嘲るような(まなこ)がよぅ。 ゴロゴロと辺り一面、河原の石のように転がっているのが。 「哀れなもんだな、剣介のやつも……。」 「あれだけの剣術の使い手がまさかな。」 やめろ、やめろ。 そう、そのまさか。 十五の春。 あの隊列発表時を思い出す。 「一刀 剣介(いっとう けんすけ)! お主を『おめで隊』の曲芸隊長に任命する!」 その時の驚きは天地がひっくり返したところではない。 一気に春を通りこして極寒の冬山に叩きだされた感じ……。
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