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二.名前負け
____半年前、神楽殿にて。
「いやだいやだ!ぜっーてぇーいやだ!」
「まぁまぁ剣兄、もう堪忍しなよ。」
「うるせー!こんな事をするために、
俺は毎日死ぬ思いで、剣術の鍛錬をしてきたわけではないわい!」
南京玉すだれ。
手に持たされたこいつを見ると
何だか泣けてくる。
剣術でいえば、道場みたいなここ神楽殿で、
俺たちの隊は芸を叩きこまれる日々を送っていた。
「剣兄、仕方ねえだろう。何かの縁あっておいらたち、この『おめで隊』に選ばれたんだから。」
「馬鹿野郎!誰が悲しくて、こんな色物みたいな隊に。
そしてたった四人しかいない隊に……。
うぅ、俺はなぁ、妖どもをなぁ、
妖どもを切るためだけになぁ、
それだけの為に日夜剣術を鍛錬してきたんじゃ!」
あー、鼻の奥がツンとする。
泣くな、剣。
俺は剣士。
俺は男だ。
十五才。
いっぱしの成人。
この歳になると、
世の中を守る隊に入るというのが
俺たちの時代の慣習だ。
病気から民を守る『看病隊』
作物を作る『農作隊』
その中でも花形の隊が、『剣士隊』
いわゆる、世にはびこっている妖どもを討伐する花形の隊。
天涯孤独の俺は、童の頃から、
一人で悲しみや空腹に耐えしのんだ。
そんな苛立ちを剣にぶつけ、妖を切るためだけに剣術の鍛錬に日夜励んだ。
いつの間にか、周囲の村々からも先見の眼差しで見られる剣士になった……、つもりだった。
そして俺が剣士隊に選ばれるのは、鳥が空を飛び、魚が水を泳ぐが如く、
当たり前の事だと誰もが思っていた。
「なぁ、お前もそう思うだろう?」
くるりと踵をかえした俺が
同情をこったのは、まだあどけない少女。
まぁ俺と同い年の十五だが。
「あっぅー。」
「おめぇ、言葉しゃべれなかったな……。」
「ほら、剣兄、歌子も困っているだろう。」
どいつもこいつも何なんだ、皆、名前負けしてるぜ……。
俺の目の前にいる、やせっぽちのこの男。
名前を鼓舞鳥 三郎。
こぶとり?
小太りだと?
小太りどころか、もやし並みのやせっぽちが。
ただ、祝いの席になると、しなやかに舞う姿はいつ見ても惚れ惚れはする。
祝いの席では、こいつの獅子舞はかかせない。
「あっ、うー。」
そして俺を哀れんだ目で見ているこの女。
小さい頃何かの拍子で声がでなくなったんだと。
その代わり、奏でる篠笛の音色は、聴衆を虜にする。
かくいう俺もその一人になりかけた。
蝶番 歌子。
祝の席では、そんな歌子の鳴り物も欠かせないものだ。
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