二.名前負け

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___時は再び現在。 早朝稽古が終わった、朝飯時の神楽殿。 「どうじゃ、舞の三郎、ここ1か月の祝い事は?」 師匠は今日も朝から赤飯を食べる。 毎日、毎日、祝うことが仕事だからって縁起かつながくてもいいだろうに。 だから俺は断固として麦飯を食らう。 それが、せめてもの抵抗だ。 「はい、師匠。なんだか減ってきているように思います。」 三郎の寂しそうな声。 師匠は俺にあからさまに見えるよう 手に持ったお神酒(みき)をぐびりと喉に流し込んだ。 やれやれ、どんだけめでたいんだ。 俺は二人のやり取りをうんざりしながら聞き流し、天井の梁を眺めた。 「最近は、(あやかし)の襲来も激しくなってきてるからな。お祝い事が少なくなってきているように感じるのう。民も毎日に余裕がなさすぎて、特別な瞬間を作る気持ちが薄まってきているんだろう。でもな、祝う瞬間をつくることでしか、見えないものって確実にあるんだがな……。」 そう、つぶやいた師匠の顔は珍しく元気がなかった。 「あぅ……。」 隣で静かに汁物を啜っていた歌子も寂しそうにうなずく。 しびれを切らした俺の口は勝手に言葉を放つ。 「師匠、そもそもこの『おめで隊』って、何でこの世に必要なんすか?」 「剣兄!やめろよ。」と三郎。 「お前はだまってろ。 師匠、俺は納得がいかねえ。こんな殺伐な世では祝う事よりも、むしろ悪い奴を切って切りまくる方が 今の世に求められている事だと思いませんか?」 黙ってコトリと箸を置いた師匠の眼光が俺を貫く。 「ふん、いつも自分の事しか考えておらぬお前に教える必要などないわい。」 なんだと!このくそ爺! 「ごちそう!」 苛立ちを隠すことなく、一目散に俺は神楽殿を飛び出す。 その園庭にそびえ立つ、大きな大木の枝にひょいと足をかけて、いつものようにかけ登った。 上へ、また上へと。 まるで忍者のように。 気持ちを落ち着かせるときは いつも俺は木に登る。 登ったと思ったら、また別の木へ飛び移り、 綱をはった遠くの木へは、綱渡り。 こんな事をいとも簡単に躊躇せずできる身体能力が悩ましい。 まさか、この能力を買われて、おめで隊に入れられたんじゃ……、想像しただけで身震いがする。 登りきった木立のてっぺんからは、遠くの村々まで見渡すことができた。 澄み渡る五月の風が火照った体を冷ましていく。 どこかの剣術道場から鍛錬を積む声も風にのって聞こえてくる。 ふん、お前らがどんなに鍛錬積もうが、俺の剣術に勝てる奴はいない。 (あやかし)など俺一人で十分だ。 「早うおりてこ~い、曲芸の剣介!庄屋様の赤坊の初節句にお呼ばれしたぞ。祝いめでたの出陣だ!」 地上から俺を呼ぶ、バカでかい師匠の声で我に帰る。 更に次に放った師匠の一言、 いや駄洒落で俺は一瞬木から滑り落ちそうになった。 「今日の!」
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