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三.俺は剣士だ
ふん。
だから。
どうした。
目の前で舞が踊る。
舞といっても獅子舞だが。
いつもは吹けば飛ぶようなやせっぽちの三郎が
、今日みたく祝いの席では
優雅に激しく練り狂う。
その姿に大衆から驚嘆の声が上がる。
更に耳にこだまするのは、艶やかな篠笛の音。
うっとりしてきた……。
いけねぇ、俺がそうなって、どうする。
歌子の鳴り物に酔いしれているのは
まぎれもなく、俺だけではないのは
大衆の面様を見れば分かる。
だから。
どうした。
「うわー!おっ母すごいね。」
「ねぇ、きれいな音色ね。」
何で皆こんなに咲顔なんだ。
俺はいつも思う。
なんで人を祝うと、こうも皆咲顔になる?
ていうか、なんで俺が関係ない他人の事を祝う必要がある?
「さぁさ、皆様ごらんください~。
次はこの皿を長く長く回して見せましょう~!」
ちらりと師匠が俺に催促の目くばせをする。
あー分かったよ。やればいいんだろう。
気が乗らずにもっていた和笠をばさりと開く。
その瞬間一人の男の声が場を切り裂いた。
「でたぞぅ!足高村に妖がでたぞ!日照り妖怪じゃー!」
何だと!
辺り一面咲き誇っていた大衆の咲顔が、瞬時に引いていく。
「何てことだ、隣村にまで妖が!もうこの世の終わりじゃ。」
俺はニヤリと口元を緩ませた。
とうとう来たな。
皆悪い、俺はやはり剣士だ。
俺が倒す!俺が剣士隊よりも先に!
「あばよ、師匠!お前ら。」
口をあんぐり開けた師匠たちを残して
俺は一目散に駆け出した。
懐に隠した剣をひっこ抜いて。
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