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妖。
この時代にはびこる畜生ども。
いつどこで生まれたのかは誰も知らない。
ただ、風の噂では、人間の弱み、妬みにつけこみ、その心のすき間で
産声をあげたとも言われている。
どの妖も牙をとがらせ人を食らい、身の丈200寸ほどあろう巨体で村々をなぎ倒していく。
そんな畜生どもを切るためにこの世に生まれたのが『剣士隊』
そう、俺がなりた、いや……、なりそこねた隊だ。
ちっくしょーこんな時に悔し涙が。
でも、見てろよ。
剣士隊よりも強い俺様の剣術で目に物をみせてやる。
さぁ、どいつもこいつもどけどけどけー。
干からびた田畑を守るよう村人達は懇願する。
「きゃぁーーー助けてくだせせぇ!」
ある者は、家族の命を守るため。
「これ以上、俺らの田畑を荒らさないで!」
ある者は、命をかけて作った作物を守るため。
一目散に駆け付けた俺の眼下には、日照り上がった田畑と
血生臭い匂い。
そして正面にそびえ立つバカでかい妖を
囲むように、剣士隊共が構えているのが見えた。
どの剣士も瀕死の状態のようだ。
「いくぞ!二番剣士隊、三番剣士隊!左右に走れ、挟み撃ちじゃ!」
追い込まれた剣士の命に隊は一斉に妖に向かって切りかかる。
だがそれも空しく、一瞬にして妖の爪牙の生贄に。
「ガルルルルッーー!」
咆哮が、辺り一面に轟き、
俺の体を縮み上がらせる。
いやいやこれは武者震い。
剣士隊の腕ではあいつは倒せん。
「いざ、参ろう!どけ、どけーー!」
いきなり現れた俺に、剣士隊は呆気に取られて立ち竦む。
「え?何で?何であいつがここにいる?」
「剣士隊でもない、めでてー野郎の何であいつが!?」
うるせーよお前ら。
俺の剣術をよーく見とけ。
瞬間、地面を勢いよく蹴り上げた俺の体は宙を舞った。
「奥義、七転八倒切!」
相変わらず自分でも惚れ惚れする身体能力で風車のように体を回転させる。
今まさに、そんな俺の体と剣先が一体となり眼下にそまる妖の体を切り裂いた。
「ブギャーーーー!」
仕留めた。
返り血を浴びつつも
妖を背にスタリと地上に降り立つ。
さぁ、剣士隊、どうだ俺の力は。
その時だった。
「剣介!うしろ!」
その声で、ハッと振り向いたその刹那、
倒したばずの妖の爪牙がギラリ。
やられる!と思ったその一瞬の出来事だった。
目の前に血しぶきが迸る。
「えっ師匠!なんでこんな所に!」
そこには、俺をかばうよう、さっきまで陽気に
歌っていた師匠が横たわっていた。
「師匠!!」
ゾワリ。
一陣の怒風が俺の心を吹き荒れる。
許さん。
許さんぞ、日照り妖怪!
おやっ、今師匠の手が何か動いた?
あれっ、いつの間に。
左手に渡されたのは和傘?
なんで?
考える間もなく、またもや妖の爪牙が襲い掛かる。
くるりと後方に翻る俺。
そして、手にした和傘を勢いよく回した。
「それっ!それっ!それっ!」
すぐに右手で放り投げた剣は、俺の手を離れ
その和傘の上で優雅に踊り始める。
「ほぅー。」
遠くで見ている剣士隊の感嘆する声が聞こえる。
あんたらこんな時に感心している場合か。
「いつもより長く回っています。おめで、たい……。」
そう、つぶやいた師匠の声を合図に
、和傘を空へ突き上げる。
その瞬間、剣はぶわりと風を起こし天高く舞い上がった。
あとは、再び空中でそれを掴むと、妖めがけてまっしぐら。
今度はみごとに切り裂いた。
そこには日照り妖怪の断末魔だけが轟いた。
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