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「師匠見たか!少しは練習した曲芸が役に立ったぞ!」
「……。」
「おい、師匠起きろよ!これにて、めでたしめでたしだ。おい、起きろよ。死ぬな!」
今にも途絶えそうな声で師匠がポツリとつぶやく。
「剣……。本当にそうか?本当にそうか周りをよう見てみい。」
「えっ?」
周囲を見渡せば膝から崩れ落ちて泣き叫ぶ村人達。
日照り上がった田畑をみて落胆する村人達。
肩を抱き合いながら傷ついた剣士達もいる。
「見てみい、剣よ。これからあの者達がどんな苦しみや葛藤を抱えながら生きていくかお前に分かるか?想像できるか?」
「えっ。」
「それを見て、お前は今どうありたい?相手の存在を通じて、自分がどうありたいかを考えよというとるんじゃ。
少年漫画みたく悪を退治してめでたし、めでたしじゃない。
それで終わりじゃない。
大切なのはその後に残った、人の遺恨や悲しみや、慟哭を浄化していくこと。
これからあの村人達は、妖が荒らしていった田畑を、また命を懸けて一から耕すだろう。
そこで命の芽が出た時の喜びを想像してみろ。
そんな人々の汗と涙と努力に対して感謝、そしておめでとうじゃろが。
相手の人生を知り、認め、愛すること。
そういった、日常で見過ごされがちなものを、あえて感じようとする行為が『お祝い』じゃ。そんな人生において感動する瞬間を祝う価値を世の中に伝えていくのが我らの使命よ。それが今、この乱世に大切なことじゃ。
本当の祝芸とはな、小手先の技術じゃないぞ。
人をおもんばかる気持ちが芸に乗り移る。
心から相手におめでとうを言えるやつこそが真のおめで、た、い……。」
「師匠ーー!!」
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