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「お前に今、言霊を売った」
「言霊……って何ですか?」
「ことばに宿ると信じられてきた霊力の事だ。『言葉屋』は後悔の念に駆られている奴に言霊を売る仕事なんだよ」
「そんな仕事が……あ、でも代金って」
「報酬ならもう貰ったから。金はいらないよ」
僕は何の異変も無い右掌を見る。少しだけ温かみのあるそこをギュッと握り締めると、自然と気持ちに余裕が出来た気がした。胸の奥がスッキリしたような。
そして彼がボソリと呟いた。
「『言葉』というものは、気安く手に入れて良いものじゃないってさ。誰か言ってくれないかなぁって、俺はいつも思うわけよ」
「え?」
「ほら買ったんだからすぐ帰るー、おひとり様一点限りでーす」
「いや、ちょっと待って……!」
用は済んだとばかりの僕の腕を掴み、玄関まで連れて行かれる。ローファーを履いたのを確認されると、背中からボンと突き飛ばされて前に転びそうになった。
「もう二度と来るなよ、学生」
その言葉に反論しようとして振り返ると、もうそこは『言葉屋』ではなく。
僕の目の前には、探していた通学路が広がっているだけだった。
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