『言葉屋』と言ふ処

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「は……?」 「いやだから、ここは『言葉屋(ことばや)』っていう店だってさっきから言ってるじゃん」 「そんな店、聞いた事ありませんよ!家に帰りたいので地図見せてください!」 「やーだ。営業妨害は辞めてくださーい」 べーっと舌を出して煽ってくる男。藤色の着流しに黒い羽織り。ボサボサの黒髪は伸ばしっぱなしで後ろで乱雑に結んでおり、前髪で両目が隠れていて視界があるのか分からない状態。 こんな不審者のような奴と、男子高校生である僕は今対峙している。至極イラつかせてくる男は特徴から見ても若く見えた。僕よりは一回りは年上であろうが。大人は落ち着いているイメージだったが、此奴に至っては例外だったようだ。 変に人を煽って楽しんでいるようにしか見えない。 僕だって道に迷わなかったら、こんな所に居ない。家には帰りたくないけれど、この変な場所からは帰りたい。 発端は三十分前までに遡る。
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