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『言葉』を侮る勿れ
そして冒頭に戻る。男の口から『言葉屋』だと告げられたこの家は、やはり僕の耳には入れた事の無い場所だった。
『営業妨害』とか言われて更にフツフツと苛立ちが煮えているが、僕は帰る為に必死に思考を巡らせる。
この家から出てしまうのが吉だと思い、立って玄関へ向かおうとすると後ろから声を掛けられた。
「ここからは『言葉』を買わないと出られないよ」
「そんなわけ……!」
「だったら玄関で戸を開けてみれば?」
僕は鞄を手に玄関へ向かった。ローファーを引っ掛けて引き戸を思い切り開けてみる。外だと歓喜したと思ったのも束の間、全くそんな事は無かった。寧ろ、背筋が凍るというのを体験した。
「ね?出られないだろ?」
「な、んで……」
「『言葉』を買わないと出られないって言ったじゃん」
僕が出たのは外ではなく、男が居る部屋だった。僕が先程まで居た部屋に出てきたのだ。全く別方向であり、繋がっているはずのない部屋に僕は出てきた。
からくり屋敷という訳でもあるまい。僕が固まっていると男が近寄ってきて、僕の腕を引き畳の上に座らせる。
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