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応対
─── この家からだ。
香帆はインターホンを鳴らした。
すると、
「はい、どちら様?」
大人の女性の声だった。
香帆はあれ?と思ったが、
「近所の者です。子供の泣き声が……」
みなまで言わないうちにドアが開いて、女性が1人で門扉まで出てきた。
「ごめんなさい、騒がしてしまって。」
女性はにこやかに言った。
「あ、いえ、うるさいとかじゃなくて、何かあったのかと思いまして。」
「うちの子、夜泣きがひどくて。」
女性は言いながら首を傾げている。
香帆は慌てて自己紹介した。
「最近、近くのハイツ K に引っ越してきました。
柳川と申します。」
「ああ、そうなんですね。」
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。
どうぞ、上がってお茶でも?」
「え?」
香帆は戸惑いを隠せなかった。
もう夜中の1時をまわっている。
「いえ、あの、就寝前なので。」
「そうですか……」
女性は残念そうな顔になった後、気を取り直したように言った。
「じゃあ、また今度、昼間いらっしゃいませんか?」
「そうですね、昼間、出直して来ます。」
香帆は半ば逃げるようにして、自分の部屋に戻った。
子供の泣き声は、インターホンから香帆の声がした時点で止んでいた。
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