白昼

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白昼

 翌日は日曜日だった。  香帆はゆうべの家に向かった。  なんとなく関わりたくない、そう思ったのだが、子供のことが気になった。  つまり、アザがないかとか………。  インターホンを鳴らすと、走ってくる足音がして、人影がドアのガラス板から外を見た。  すぐにドアが開けられたので、香帆は面食らった。  それでも一応言った。 「突然ごめんなさい、ゆうべ、連絡先を聞きそびれてしまったので。」  女性はまたにこやかに言った。 「わかってますよ、訊かれてないもの。」  ふふっと笑う顔には化粧がしてある。  ふだんから身だしなみに気をつける方なのだろう、と香帆は思った。 「上がってください。」 「おじゃまします……」  香帆は女性に先導されて廊下を歩きながら、さりげなく子供の姿を探した。だが、気配がない。2階の部屋にいるのだろうか? 「散らかってますけど、適当に座っていてください。いま、お茶を淹れますから。」 「おかまいなく。」  リビングに通された香帆は、瞬間的にヒッと息を飲んだ。  ………幼児が座り込んで、じーっと香帆を見ていた。 「あ、おばちゃんね、やながわかほっていうの。近くに引っ越してきたのよ。  よろしくね。」  暖房の効いた部屋で、幼児は半袖短パン姿だった。とりあえず、見えるところにはアザも怪我もなかった。 「かほおばちゃん?」 「そうよ。」 「わたし、なこ。」  幼児はにこーっとして、香帆のそばに来た。  手を取って、コタツのほうへ引っ張る。  その動きはなめらかで、痛い所もないようだった。  香帆はひとまず安心して、なこちゃんにすすめられるままコタツに入った。  なこちゃんは、 「おみかん、どおぞ。」 と、コタツの上の竹カゴからミカンを取って渡してくれた。 「ありがとう。なこちゃんもどうぞ。」  香帆もミカンを取ってなこちゃんに差し出した。  なこちゃんはまた、にこーっとしてそれを受け取り、香帆の隣に座ってむき始めた。 「なこちゃん、ミカンはおしりからむいたほうが、むきやすいよ?」 「あ、そうか。なこ、ほんとはきんちょうしてるんだ。」  見たところ、2~3才だろう。  冗談のうまい子だ。 「あら、なこちゃん、ひとみしりなの?」 「うそんぷー!」  二人はきゃきゃきゃと笑い合った。  そこへ、お茶とお菓子の載ったお盆を持った女性が来た。 「もー、なこは手が早いなぁ。  お母さんより先に自己紹介して。」 「なこ、てがはやくないもん!」  小さいのに、意味がわかっているのか。 「このなかで一番手が早いのは香帆おばちゃんよね。一番に名前言ったもんね。」 「そーだ、そーだー!」  なこちゃんが両手を振って喜んだ。  初訪問は和やかだった。
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