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時間
気がつくと、時計の針は5時を指していた。
「あらやだ! もうこんな時間!
私、帰りますね。
長居しまして。」
香帆はあわただしく立ち上がった。
「え、帰るんですか?」
「え……。だって、お夕飯の支度がおありでしょう?」
「食べていかれませんか。」
「いえいえ、そこまでは。」
話が盛り上がったとはいえ、初対面のようなものだ。香帆は遠慮した。
「そうですか……。帰っちゃうんですか………」
女性 ─── 真由さんのトーンが急に変わった。香帆はなぜか背筋がぞっとした。
「うちは全然かまわないのに。
なんなら泊まっていってもいいのに。」
なんだろう、この人。
こういう人たまにいる、と香帆は思った。
いる、というか、いた。
まだ高校生くらいの頃だったけど。
もしかすると、子育てストレスかも知れない。
特に、孤独感。
幼児の相手ばかりしていると、自分が社会から隔離されているような気分になると、友人が愚痴っていたことがある。
なこちゃんの夜泣きも、真由お母さんのストレスが伝わるせいかも知れない。
香帆は迷ったが、思いきって言った。
「じゃあ、お夕飯だけいただいて………。
作るの、手伝います。」
真由さんは花のように明るい顔になった。
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