Five

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「うん……」 「そう言えば山村(やまむら)さんの息子さんがね、最近起業して社員を募集しているらしいの」 「え?」 山村さんというのは、うちのご近所さんだ。息子さんには俺も昔から何度か顔を合わせている。確か俺より十歳ほど年上で、穏やかで優しそうな感じの男性だ。 「オメガ性の社員も積極的に募集しているようだし、山村さんのご家族にはオメガの方が何人かいるようだから、性別のことで不当な扱いをされたり嫌な思いをすることもないと思うわ」 「……」 それは確かに素敵な会社だ。今の会社で、まさに性別のことで苦しい思いをしているから、尚更そう感じる。 俺が今の会社からいなくなれば竜崎さんも正当に昇進出来るのだし……。 でも……。 「……俺、今の会社まだ辞めたくない、かも……」 竜崎さんに迷惑を掛けたくない。その気持ちは変わらないが、迷惑を掛けたくないという気持ちと同じくらい、まだ逃げたくないという気持ちがあることに今、気付いた。 そんな俺に、母はフッと微笑む。 「そう、分かったわ。でも無理はしないでね。辛くなったらいつでも帰ってきていいからね」 「うん。ありがとう、母さん」 オメガの俺に出来ることも、まだ何かあるかもしれない。 諦めるのは、全てやり切った後でもいいはず。そう思ったのだったーー。
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