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「違います。身体なんて使っていません」
「じゃあ、何をしたって言うんだ。お前なんかが」
部長に強い口調で何を言われても、俺は自分を信じて冷静に言葉を紡ぐ。
「俺はただ……何かヒントだけでも得られればと思い、S食品に足を運んだんです。
担当者の方は友好的だと竜崎さんから聞いていましたので、そこから何とか話を聞き出したところーーこれはS食品の社長自身からも許可を得ているのでお話しするんですが、あちらの社長はベータ性らしいんですが、お兄さんがオメガ性であることを理由に、職場でアルファの社員から不当な扱いを受けて身体を壊してしまったそうなんです。
それがきっかけで、社長はアルファの方と仕事をしたくないと思い始めたそうで……。
天方はアルファの社員が多いと評判ですし、そもそも会社自体があまり良く思われていなかったらしいです。
だから……俺の二次性別がオメガだということを伝えて、担当者の方に間を取り持ってもらいながら、社長と少しの間ですが直接お話しをしていただいたんです。
契約をすぐに決めていただけたのは意外でしたが……」
順を追って説明すると、部長は「なるほど」と頷いてから口端を釣り上げ、こう言った。
「オメガにしてはやるじゃないか。まあ、この後の仕事はオメガには無理だろうから、俺が引き継いでやる。契約を取ったのも俺だということにしておけ。S社の担当者には上手く言っといてやる」
どうやら部長は、S食品との契約を自分の手柄にするつもりらしい。
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