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そう言って竜崎さんは、俺の肩を自分の方へグイッと力強く抱き寄せた。
ときめいている場合ではないのに、思わず心臓が跳ねてしまった。
「竜崎、お前まで俺に逆らうのか⁉︎」
わなわなと小刻みに震える部長に、竜崎さんは冷静な口調で答える。
「逆らう以前に、そもそもオメガの番であるアルファを昇進させないなんて、部長に決定権があるはずないですよね?」
……え?
ポカンとする俺に、竜崎さんが説明してくれる。
「そりゃそうだろ。社員の昇進を最終的に決めるのは人事部だろうしーーまあ、人事部長もオメガ社員をクビにしようとしているくらいだから何とも言えない部分もあるけど、とにかく今回のことは営業部長が勝手に言ってるだけってこと。……啓人が俺のためにここまで一生懸命になってくれて嬉しかったけどな」
「竜崎さん……」
真っ直ぐに見つめられ、またしても思わずドキドキしていると、部長が両手でデスクをバンと叩きながら勢い良く立ち上がった。
「竜崎! さっきから何だ、その態度や口調は! いつものお前らしくもない!」
口調を指摘された竜崎さんは、フッと怖いくらい優しく笑う。
「部長にはちゃんと敬語で話してるじゃないですか。それに、いつもは会社で猫被ってたってだけですよ」
「猫……?」
「はい、その方が仕事やりやすいので。でも、大切な将来の番が酷いこと言われているのに呑気に猫被ってる場合でもないですよね」
そう言うと、竜崎さんはゆっくりと眼鏡を外し、レンズ越しではない眼差しで部長をギロリと睨む。
そしてーー。
「こちらも、河野さんのための覚悟ならとっくに出来ています。だから、クビになっても構わないのでこれだけは言わせてください。
ーー啓人に謝れ。このハゲ」
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