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「それにしても……S食品に乗り込むから資料をくれって啓人から言われた時は、本当に驚いたよ」
ビールを飲みながら、からかうようにニヤッと笑って、竜崎さんがそう言った。
「の、乗り込むなんて言ってないでしょ。俺はただ……仕事を辞めるか辞めないか考える前に、まだ何か出来ることあるんじゃないかなって思っただけです。契約が取れたのも、たまたまですよ。たまたま俺がオメガだったから……」
「たまたまなんかじゃない。啓人の実力だよ。オメガなら誰でも契約してくれた訳じゃないんだから」
ついさっきまでのからかうような笑みとは違い、優しく真剣な眼差しで俺を見つめながら竜崎さんはそう言ってくれた。
「竜崎さん……」
「だから先輩としては、後輩に契約取られて少し悔しいけどな」
「く、悔しいなんて……。俺なんてまだまだですよ……」
「はは、当たり前だ。今回は負けを認めるが、そう簡単に追い越されたら堪らないからな」
そう答えた後、竜崎さんはこう続ける。
「オメガ社員のクビが見直されたのは良かったけど、啓人と番になるきっかけがなくなったのはちょっと残念だな」
「えっ」
一瞬ドキッとしてしまったが、残念だと言っている割には口端が釣り上がっている。つまり俺のことをからかっているに違いない。
「も、もう。そうやってからかわないでください。竜崎さんだって、俺とこんなにすぐ番うことになるなんて、本当は困っていたでしょう?」
何年後、とかならともかく、まだ付き合ってから数ヶ月の俺と番うなんて、内心では絶対に戸惑いがあったはずだ。俺達が三月までに番う予定だったのは、あくまで俺がクビ候補になっていたから、なのだから……。
しかし竜崎さんは、フッと不敵に笑ってこう答える。
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