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母の動揺
僕が突然泣き出して、神隠しにあった事を感謝したものだから、母さんは呆然としていた。僕はちょっと説明不足だったなと苦笑して、説明するから冊子と丸い真っ白な石はどこにあるかを尋ねた。
母さんは戸惑いながらも、僕の顔が明るいのに安心したのか、蔵の奥まった鍵付き棚の中に保管してあると言った。僕は母さんにそれを取り出してくれる様に頼むと、勝手に居なくならないから僕に預けてくれる様に頼み込んだ。母さんは不安げな顔を見せながらも、僕の必死な様子に渋々それを僕に渡してくれた。
僕たちは蔵から出ると、神社近くの祖父母の家に行った。僕の退院を喜んで迎えてくれる祖父母を有り難く感じた。けれど、僕と母さんは話をしなくてはならず、落ち着かない気分が続いた。
帰り際に母さんとお祖母さんが話してる隙に、僕は祖父に入院中に色々助けてくれてありがとうと礼を言った。お祖父さんは少し躊躇した後に、静かに答えた。
「慎、私は父が自分の目の前で弟が消えた事を、ひどく後悔していたのを見ていたんだよ。そして今回、慎が居なくなった時にお前の家族や私たちがどんなに悲しんで、後悔したか…。
だが、お前は帰ってきた。…しかもお前はこちらに居た時よりも何倍も魂の中に光を集めて帰ってきた様に見える。それを見て、私は冥土の土産で父に話してやれるんだ。きっと叔父さんもたどり着いた場所で、光を集めて活き活きと生きていたでしょうと。
お前が入院中に随分思い悩んでいた事は知っている。だからお前がどんな道を選ぼうと、私はお前の選択を認めるつもりだ。だが、必ず両親や私たちにはその事を伝えてくれ。突然居なくなる事ほど、辛いものはないからな…。」
そう言ってくしゃりと泣きそうな顔をすると、皺だらけの手を伸ばして僕の肩を掴んだ。
「…お祖父ちゃん。…分かりました、約束します。突然居なくならないって。」
そう言って僕はお祖父ちゃんをそっと抱きしめた。僕たちを見ていたお祖母ちゃんが狡いと言うので、僕は笑ってお祖母ちゃんも抱きしめた。お祖母ちゃんは笑っていたけれど、目尻には涙が光っていた。
僕たちは車に乗り込むとすっかり暗くなった夜道を家路についた。この辺りはあまりひと気が無いので、僕は真っ暗な中に包まれている様な感覚になった。車が照らす少し先に次々に現れる道の曲がりを見つめていた。しばらく黙って運転していた母さんは車を止める場所を見つけると、停車させてから重い口を開いた。
「まず、私が知ってる事を話すわね。」
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