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母の話
「…私が調べた事はその冊子に書いてある通りなの。でもそこに書いて無いことがあるわ。突然消えた慎のひいお祖父さんの弟さんは、私の父曰く家系内でも力がとても強かったようなの。慎が毎年神社でやってくれていた弓祓いの儀式でも、普段全く力を感じられない人にさえ、何かを感じさせることが出来たそうよ。
私も慎もやっぱり人よりは神社に仕える身としての由来なのか、神力を感じる力が人より多いでしょう?慎は私よりずっと力が強いのには気づいていた。だから余計にひいお祖父さんの弟の様に居なくなるんじゃ無いかと思って、それを防ごうと調べたのよ。それが返って真逆の事になるなんて…。」
「知らなかった…。僕にそんな力があったなんて。母さん、母さんは自分のやった事に後悔してるみたいだけど、…僕は感謝してるんだ。」
それから僕は母さんに異世界に飛ばされた後の事を話した。…ジュリアンとの関係は、愛し合う最近の話として話すしかなかったけど。最初の頃から従者の義務として、身体の関係が発生したなんて言ったら、母さん発狂しそうだったし。
母さんは驚きと、処理しきれない感情に揺さぶられてる様だったけれど、僕の話を聞いた後に、ほぅっと息を吐いて言った。
「慎の力については、普段の生活で使うわけじゃなかったから、気づかなかったでしょうね。私たちや一部の氏子さんは気づいてたけれど、慎のプレッシャーになると思って、成人になるまでは言わないでおこうと決めていたのよ。
そう言えば、慎がまだ意識の戻らない頃に、ジュリアンって呼んだのを聞いたわ。その時には何だろうと思っただけで、命が助かった事に気が入って直ぐに忘れしまった。そう、慎、あなたは幸せに感じながら過ごせていたのね。
…慎は戻る気なのね。ジュリアンさんのところに。」
僕は母さんの鋭さに少し笑ってしまった。
「うん。戻りたい。…僕はすっかり変わってしまったんだ。もう僕は、こちらの世界では違和感しか感じられない。多分このまま大学へ行っても自分が自分で居られない気がする。
それに、僕はジュリアンを愛してるし、ジュリアンも僕を愛してくれている。命を換えてもジュリアンの側にいたいんだ…。
ふふ、母親にこんな事告白するなんて、もう僕はすっかりあっちの人間になってるって証拠だよ。以前の僕じゃあり得ないでしょ。」
僕がそう言って笑うと、母さんは少し困った顔で微笑んだ。僕は母親をそっと抱きしめると言った。
「母さん、親不孝なのは分かってるんだ。僕はきっともう、こちらには戻ってこない…。ごめんなさい。」
そこまで言って、僕はハッとして母さんの顔を見て言った。
「母さん!僕大事な事を忘れてたみたいだ。僕、どうしてこちらに戻ってこれたんだろう!」
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