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世界はめぐる
僕は馬鹿だ。何でこんな大事な事を考えなかったんだろう。ひいお祖父さんの弟は戻ってこなかった。じゃあ、僕はどうして戻ってこれたんだろう。僕が深刻な顔をして考えを巡らせていると、母さんが僕を真っ直ぐ見つめて言った。
「…全部母さんのせいだって言ったでしょ。私は慎が神隠しにあってから、しばらくあなたのお父さんや私の母には自分のしでかした事を言えなかった。でも父、あなたのお祖父さんには相談したの。
父は言ったわ。行き方が分かってるんだ、戻る事も出来るだろうって。私と父は、あの白い宝玉を神棚の一角に祀ったの。父曰くは、宝玉がよりしろとなって、きっかけが有れば慎が帰る通過ポイントになるだろうって。
実際、あの宝玉は私が子供の頃に蔵の片隅に埃をかぶっていたのを見つけて、蔵の奥に隠した事も忘れて放置されてたのよ。それを私が詳しい話を聞いて思い出して、大事に、それこそ今考えると使えるようにしてしまったのね…。」
僕は母さんの話を聞いて、僕が戻ってきたのは強くなった宝玉の力と、あの時の僕のジュリアンを救いたいという強い気持ちが祝詞と重なって繋がったのだと思った。そして僕の命の危機で呼び寄せの力が働いたんだ…。
母さんは一息つくと、僕の手を握って言った。
「私は後悔したわ。でも慎が前より逞しくなって、幸せになって帰ってきた。それだけで、私の罪が許された気がする。…まだ、整理はつかないけれど、あなたの気持ちは尊重するわ。…後はお父さんがなんて言うか…。」
それから僕たちは家に戻った。すっかり遅くなってしまったので、僕は食事もそこそこに部屋に戻った。
僕は部屋で、真っ白な宝玉を取り出して見つめた。手のひらの大きさのこの宝玉が、僕を誰も経験しない様な運命に導いたのだと思うと、不思議な気がした。
そして、ふと、なぜ僕はあの世界に呼ばれたのだろうと考えた。
もう一度世界を飛ぶことができるとして、もう一度同じ世界、ジュリアンの元に行けるという保証はあるだろうか。もし違ったら困るなと、僕はぼんやりと思いながら明日は父に話をしなくてはと少し憂鬱になりながら、スマホをチェックした。
清水先生からのメッセージが来ていた。明日の夜ご飯の誘いだった。僕はこの不思議な経験を誰かに話しておきたくなって、会う事にした。しかし、返事が速すぎない?先生って、夜勤中だよね。暇なのか…。
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