父親を説得

1/1
前へ
/128ページ
次へ

父親を説得

結局、母親が夜のうちに父にはザックリと話を通してくれた様で、朝食中に父親がぶっ込んで来たのには驚いた。 「慎、そういえばお前、神隠しで行った場所に戻りたいんだってな。」 僕は喉にご飯が詰まってむせたし、母親はキッチンで何か落とした。僕の父親はほんと、変わり者だ。いつも飄々としていて何を考えてるのか分からない。大学の教授ってのはこんな人が多いのだろうか。 「反対だ。そりゃそうだろう。可愛い一人息子が、得体の知れない世界の、得体の知れない騎士だか、男に取られるとか。ちょっと父さんの想像力を超えてて、訳がわからん。実際、お前が居なくなった時の周囲の人間の動揺ぶりと言ったら大変だった。忽然と消えたのは間違いなかったしな。 実はな、あの倉庫は以前泥棒事件があっただろ?こっそり私が防犯カメラを設置して置いたんだ。だからお前が神隠しに遭った瞬間もばっちり映ってる。そっか、あれネットにアップしたらきっとバズるぞ?ははは。」 いや、はははじゃないよ、父さん。話の脱線ぶりは相変わらずだ。ほら、母さんに睨まれてるじゃないか。 「おほん。えー、そうそう反対だって話だったな。とは言え、私も若い頃から好き勝手に生きてきた方だし、親もそんな意味じゃ泣かせてきた。だからお前も親不孝なのはしょうがないかなと思ってる。 …もう一度行ったら戻ってこれないのかな?え?試さないと解らない?うーむ。ちょっとリスクがあるか。私もちょっと行ってみたかったんだけど。え?力が無いから行けない?まじか…。慎、ちょっとあっちの世界の話聞かせてくれ。」 結局父さんの言いたい事は反対だけど、仕方ないって事だった。また行方不明になると警察がうるさいので、もしかしたら動画アップして煙に撒くかも、とか嬉しそうに言ってたけど、バズった収益が欲しいだけだと思う。いつも研究費が足りないって言ってたから…。 ジュリアンについては、信長と森蘭丸のあの感じをイメージしたみたいで、漢同志の信義と愛とか言ってたけど、僕がジュリアンを愛してる事には一定の理解を示してくれた。イケメンには親も勝てないとかなんとか。はぁ、父さんと話すると、こっちが何倍も振り回されるから憂鬱だったんだ…。 僕は部屋で、異世界へ旅立つための身辺整理をやっているうちに、すっかり清水先生との約束の時間が近づいたのに気づいた。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

770人が本棚に入れています
本棚に追加