シンのいない世界

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シンのいない世界

私は暗闇の中にいる。光の見えないこの暗闇の世界に孤独に佇んでいる。前にも後ろにも進む事が出来ずに、只々立ち止まっているんだ。 じっとりと嫌な汗をかいて目を覚ました私は、天井を見つめながら目が覚めたとしても、孤独な夢の中とそう違いはないと苦笑いした。 戦場でシンが突然消え失せてからどれくらい経っただろう。3ヶ月は経ったかもしれない。もう月日の移ろいにも気を取られなくなってしまって、私の時間はあの時のままだ。 私はまだ夜明け前の薄暗いベッドで、シンがいなくなった時の事を思い起こしていた。そうすることで愛するシンが帰ってくるかもしれないなどと、自分でも馬鹿馬鹿しいと思っている。でも他に方法が見つからないのでそんな子供騙しの願掛けに縋っているのだ。 シンの血に染みた鞍を見た時のルカのあの時の表情は、時間が経てば経つほど、心に秘めた希望を少しづつ削っていく。ルカは私に直接的な事は決して言わなかったけれど、私も戦場の経験から、あれがどんなに酷い傷からの出血であるかを知っている。 この世界では決して助からない致命傷。ただ、シンは異世界の人間で、もし元の世界に消え戻ったとしたら助かったかもしれない。そう思う事で、私は自分を慰めていたんだ。 あぁ、でも自分の腕の中で愛しい人が息絶えるのと、愛しい人が命があるか無いかも分からないまま永遠に会えないのと、一体どちらがマシなのだろう。私は見つからない答えを永遠に考え続けるのだろうか。 シンを失った戦況は勝利に終わり、私たちは束の間の休息を与えられた。団長の幕内に呼ばれたのはそんな時だった。 私が幕内へ顔を出すと、そこには団長と、魔法士である副団長のローディ、ルカが居た。気の置けないメンバーだったのは、団長の計らいだったと今ならわかる。団長は私の顔を見るなり、顔を顰めて言った。 「無理もないが、それにしても酷い顔だ、ジュリアン。眠れないのか?ルカ、よく眠れるような薬草を出してやれ。」 頷くルカを横目で見ながら、私は言った。 「団長、私は眠れないんじゃないんです。眠らないんです。…いつシンが戻るかわかりません。」 ローディはため息をつくと、私に良い香りのお茶を差し出して言った。 「そんなんじゃ、シンが戻って来ても、抱きしめてやることも出来なくなるぞ?」 私は、ローディのからかいに苦笑した。ああ、それが約束されるなら私はどれだけでも眠ってシンの帰りを待つことだろう。さっきから黙っていたルカが私に目を合わせて言った。 「ジュリアン、私はシンが元の世界に理由があって戻ったのだと思っている。多分命の危機と関係あるんだろう。状況の整理については私では上手く説明出来ないから、ローディから聞いてくれ。」 そう言って、ルカはローディに目を向けた。
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