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鷹の石像
私は妙な緊張を感じながら、鷹の石像から出ている微かな白魔法の波動を確認した。丁度シンの背丈と同じ様な大きさの石像は、よく見ると精巧な造りをしていた。私はリストを眺めながら執事に尋ねた。
「この鷹の石像は何年前に作られたのか記録にあるか?これは私の記憶が間違っていなければ物心ついた時にはもう、この屋敷にあったはずだ。」
執事は大きな手帳を手にして探していた項目を見つけると、私に指し示しながら答えた。
「旦那様、こちらに記述がございます。こちらは100年ほど前に他国からの贈り物として領主様が受け取っておられます。」
私は眉を顰めた。他国からの贈り物?確かに今のフォーカス侯爵家は武勇の誉れが高い家門となっているが、三世代前は外交的な役割を担っていたはずだ。その様な付き合いもあったかもしれない。私は予想外の入手先に戸惑いながら、もう一度鷹の石像を見つめた。
ふと、鷹が何かを掴んでいる意匠の石像なのだと気づいた。鷹が鋭い爪で掴んでいるものは、よく見ると猛々しい意匠の石像とは全く違う素材でできている様だった。私は膝をつくと、その丸い石の様なものに触れた。途端に指先にビリッとする魔法の様な反応を感じた。それはシンの放つ白い魔法によく似ていた。
私は微かに震える指で、もう一度その丸い石に触れた。すると今度はじわじわと私の魔法を飲み込む様に溶け合って魔法の波動は一瞬その場で大きく広がった後、ゆっくりとその石へと吸収されていった。先程よりぼんやりと白く光るその石を私はそっと掴んだ。すると不思議なことに、カチリと小さな音を立てて、その石は私の手の中に転がり込んだ。
手のひらより少し小さめのその石は案外平べったくて、丸く見えたのは片面だけで、裏側は切った様に平になっていた。私は手のひらの上で、先程よりもさらに白さが増してきたその石を大事に両手で包んだ。そして他の物品を元に戻すか、整理する様に執事に命じて、急いで自室の執務室へ戻った。
私は見つけた時から息づく様に変化するその石が、シンと繋ぐ鍵になる事を確信していた。執務机に落ちた水滴が私の顎を伝って落ちた涙だと気づいたのは、随分経ってからだったが、それほど私とシンを繋ぐ依り代として、その石の発見は心の癒しとなったのだ。
私は手の中でぼんやりと白く発色して光る石を、希望を感じてそっと撫で続けた。
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