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再びの異世界
僕は足の下に硬いものを感じた。まだふわふわとした感覚に包まれては居るけれど、目の前の霧のような白いもやがゆっくりと晴れていくのを感じた。僕は緊張して鼓動が速くなっているのを感じていた。
家族が見守る中、祝詞を唱えながら僕はジュリアンの事だけを考えて居たのだけれど、同じ場所、世界に戻れるかどうかは分からなかった。大体、なぜジュリアンの屋敷の温室だったのだろう。その事は何度も考えてみたけれど、答えは出なかった。僕に出来る事は、ジュリアンの事を一生懸命に念じる、それだけだった。
僕は見えてきた視界に驚きを隠せなかった。明らかに温室でない場所に緊張を強めた僕だったが、よく見るとここは一度来たことがあるかもしれない…。この重厚で絢爛な感じ…。
フラつく身体と朦朧とする頭をハッキリさせるために、僕は跪いて、頭を振った。段々とハッキリする視界に呆然と立ち尽くす数人の人影を見た。その中の一人がゆっくり近づいてきてぼんやりする僕の身体を不意に強く抱きしめた。
僕はその懐かしいウッディな香りと、僕を抱きしめる感触にほっと息を吐いた。
「…ジュリアン?なんで、ここに…?」
ジュリアンの腕の中で、僕はちゃんとこの世界へと戻れた事に安堵して強張った身体を緩めた。ジュリアンが僕をゆっくり立たせると、僕は目の端に映る人物がこの国の王様だと気づいた。一度僕の身分を確証するために、挨拶した事があるその人物は、僕を見つめながら驚いて目を見張っていた。王様の周囲の数人もまた同じ表情で、その中にルカ様が居ることにも気がついた。
「…シン。本当にシンなのか?」
僕の耳元で囁くジュリアンの声に引き戻されて、僕はジュリアンを見上げた。泣きそうな顔をしたジュリアンは僕がまた消えてしまうかもしれないとでも言う様に、ガッチリと僕の腕と腰を掴んで痛いほどだった。
僕はジュリアンに会えた嬉しさと、この場の状況と、ジュリアンの力の強さに嬉しいやら、驚くやら、痛いやらで思わず笑いがこみ上げてきた。
「ふふふ。ジュリアン、そんなに掴んだら痛いです。僕、本当に無事にここに戻って来れたんですね。ジュリアン、ごめんなさい。心配したでしょう?」
ジュリアンはハッとしたように掴んだ腕の力を緩めると、私の身体を上から下まで無事を確かめるように見つめて言った。
「…シン!傷は、斬られた傷はどうしたんだ⁉︎」
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