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ルカside戻ってきたシン
私とジュリアンは第二王子のシンの拉致や戦闘、シンが斬られて居なくなった経緯などを王に報告し終わった。王はジュリアンの顔を見つめながら、眉を顰めて言った。
「お前の気持ちは分かるが、そのざまはどうだ。もしシンが帰ってきたらなんて言うか。自分の身体の事をもう少し大事にしろ。これは命令だ。」
シンが消えてからすっかり面やつれしたジュリアンは、奥歯を噛み締めて言った。
「…御意。」
私はジュリアンが心の中で、シンが居ないのに何を気をつけることがあるものか、と叫んでいる姿が見えるようだと思った。ジュリアンの眼差しは暗く、明るい希望など毎日削られていくと呟いていたジュリアンに、私もかける言葉を失っていた。
そんな時だった。謁見の間にユラユラとした揺らぎが現れたのは。
連絡を受けた王宮の魔法士が姿を見せる前に、それは白いモヤに変わった。身構えていた私達は顔を見合わせた。ジュリアンに声をかける間もなく、ジュリアンはそのモヤの側にふらふらと近寄ると、ギラつく顔で何かを待っている様子だった。
次第にボンヤリとする何かが人の姿に変わる頃、ジュリアンは手を伸ばしてその見たことの無い衣装を着込んだ人型のものを抱きしめた。私たちは顔を見合わせて頷いた。誰の顔も興奮と驚きで目も口も開いていたに違いない。
ジュリアンの首元から見える長めの黒髪はまさしくシンのもので、私は嬉しさで胸がいっぱいになった。シンがジュリアンに何か笑いかけながら囁いていたが、一向に微動だにしないジュリアンに焦れた私が咳払いをすると、ハッとしたシンが可愛らしくこちらを覗き見て顔を赤らめた。
…久しぶりに見るシンはまた随分と可愛いさが増している。シンから目や手を離そうとしないジュリアンに、シンも我々も苦笑したものの、シンはそっとジュリアンを甘い笑顔でなだめると王に騎士の礼で帰還の挨拶をした。シンは猛獣使いか何かか…。
場が緩んだのを見計らって、私はウズウズと待ちきれずにシンに抱きついた。心のどこかで二度と会えないと覚悟を決めていた、いや、この世にはもう居ないと思っていたシンが目の前で元気そうに立って、話してるんだ。抱きつかずにいられないだろ?私の可愛い義弟だし。
直ぐにジュリアンに引き剥がされたものの、私達はひさしぶりに明るい気持ちで心から笑ったんだ。
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