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僕の世界の話
紅茶のカップをトレーにカチャリと置いて、ジュリアンは僕を見つめた。僕はジュリアンの眼差しに、あの事が聞きたいのだなと感じた。
「ジュリアンは、僕に聞きたいことがあるんでしょう?」
僕がジュリアンに話を振ると、ジュリアンは少し躊躇して言った。
「…ああ。だが、こうしてシンが戻ってきた今、聞いてどうなる事もない。シンの世界の事は今までも聞かなかった…。シンが里心がつくのが怖かったからかもしれない。シンは自分の家族や生まれ故郷より私を選んでくれた。それだけで私には充分なんだよ。
…シンはルカにはあちらの世界の話をしていたようだな。話をしておいてくれて良かった。お陰でもしかしたらシンは命を落とさずに済むという希望が持てたのだから。」
僕はジュリアンの手を引っ張ると、二人で座れるソファへ連れていった。そしてジュリアンの脚の間へ座り込むと少し横を向いて言った。
「ほら、こうしてくっついていれば、僕がどんな話をしてもジュリアンが不安にならないでしょう?」
ジュリアンは僕の耳元でクスッと笑うと、そっと頬に口付けて言った。
「何だか、シンは戻ってきてから随分甘え上手になった様だな。嬉しいよ、シン。…じゃあ、聞かせてくれるか?シンの世界の話を。」
それから僕はジュリアンに僕が剣で刺されて元の世界へ飛ばされたところから話した。病院で目覚めた事。流石に命の瀬戸際だった事は言えなかったけれど、ジュリアンは難しい顔をしていたから、言わなくても分かっていたのかもしれない。
帰る方法を探して、結局母親が戻る方法を知ってた事。どうしても思い出せなかった、こちらの世界へ来た時の出来事を思い出した事。ジュリアンのところに戻れると分かって嬉しかった事。家族にジュリアンの話をして戻る事を許してもらった事。
大体のことを聞いたジュリアンは、ホゥっと大きく息を吐き出した。そして僕に断ってから立ち上がると執務机の鍵付きの引き出しから白い丸い石を出して、僕に見せた。
僕はハッとしてそれを見つめた。僕が手を出したけれど、ジュリアンはそれを僕に触れさせようとはしなかった。
「さっき、シンの話を聞いていて確信した。シンは、この宝玉に引かれてこの世界に飛ばされてきたのだろう。最初にシンがこの世界に現れた時、この屋敷の温室だったろう?あそこにこれがあったのだ。鷹の石像の足元に、コレが埋め込まれていた。」
僕は予想外の話に呆然として、ジュリアンの手の中の石を見つめた。
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