従騎士の務め

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従騎士の務め

僕はフォーカス様の後をついていきながら、今夜の事を考えていた。 僕は今、この世界の従騎士だ。戦場での従騎士の仕事には夜のお勤めがある。 最初にそれを知った時、僕は衝撃とある種の諦め、そして安堵を感じた。まぁショックだったって事だ。 確か日本でも戦国時代は戦場で小姓と主人はその関係を結ぶというのは有名な話だった。 どこの世界でも女性の居ない場所ではある事なんだろう。戦場の様な神経が高ぶる場所では特にそうだろう。 とはいえ、それが自分に降りかかるとは思っていなかったけれど…、現実は今ここにある。 自分で選んだフォーカス様の従騎士という現実を果たすべく、僕は戦国時代の小姓の気持ちになって心を立て直したんだ。 最も僕が奉仕するお相手がフォーカス様だったのは幸運だった。 フォーカス様はその名も轟く黒騎士団の筆頭参謀で、尊敬すべき方。まして僕から見ても魅力的な人だった。 僕はこの世界に落ちる前にはガールフレンドと経験はあったものの、フォーカス様の手練手管にかかったらそんなものは霧となって消えるレベルだと思い知らさされた。 最近はもう一度女性との関係に戻れるのかという心配をしてるくらいだ。 僕が一人でぽやぽやとそんな事を考えながら歩いていたせいなのか、フォーカス様が突然立ち止まった背中にぶつかってしまった。 いつの間にかフォーカス様の天幕にたどり着いていたらしい。 フォーカス様はこちらを見下ろして珍しく微笑んだ後、僕を先に天幕へ押し込んだ。 「シンの気が散っているのは、これからする事を気にしてるからなのか?」 フォーカス様はそう言いながら天幕の入り口に鍵の呪文を掛け、天幕全体に消音の魔法を掛けた。 僕はまだ小さな魔法しか出来ないので、大きな魔法を見るとその煌めきに見惚れてしまう。 「そして、相変わらず魔法が好きと見える。」 そう言いながら僕と自身に清浄の魔法を掛けた。 「清浄の魔法なら僕にやらせて下されば良かったのに…。」 僕はちょっと悔しくなってフォーカス様を睨んで言った。チャンスがあれば、僕は魔法を使いたいんだ。 「シンの魔法の腕前が上がってるのは良く分かっている。…ただ、待てなかっただけだ。」 そう言うと、フォーカス様は急に薄黄色の瞳の中のわずかに感じる緑色をグッと濃い色に変えて僕を見つめた。 僕はその目に見つめられると身体の芯が痺れる様になって、何も考えられなくなってしまう。 僕はふらふらとフォーカス様の広げた腕の中に倒れ込んだ。
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