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弓引きの達人に会う
フォーカス様と弓の訓練をする話は何故か広まっていた様で、弓場には少なくない兵士たちが訓練に来ていた。
僕は普段の簡易な従騎士服から、フォーカス様の用意してくれた鎖帷子を編み込んだ少し重量のある装備の騎士服に変えた。
フォーカス様は奥席に座って兵士長と何か話していた。
すると兵士長と弓引きで有名な兵士が、準備をしていた僕の所にやってきた。
「シン殿、こいつはこの砦で一番に弓引きが強い兵士、カークだ。フォーカス様の指示で、今からこいつに手解きをしてもらうが、大丈夫か?」
僕は二人をジッと見つめると頷いて言った。
「はい。ジャック兵士長。カークさんお手数をおかけします。よろしくお願いします。
それと僕は若輩者ですから、シンとお呼び下さい。」
二人は少し面食らった顔をしたけれど、直ぐに気を取り直して僕を射掛け場へ連れて行った。
「…シン君で良いかな?噂は聞いているよ。珍しい射掛けをするらしいね。今日は楽しみだ。」
カークさんは兵士にしては柔らかな物言いいで僕の方を向いた。
「カークさん、僕はこの国の弓引きはよく知らないのです。弓の大きさなども随分違います。
フォーカス様の所で数回射掛けましたが、実戦となると…。よろしくお願いします。」
僕はカークさんが随分年若い事にすっかり気を許して、にこりと微笑んだ。
カークさんは一瞬固まったものの、ふっと息を吐き出すと先に射かけるからと足場に立った。
的は距離、高さ、角度を変えたものが何種類もあった。
カークさんは息を2回リズミカルに吐き出すと腕を大きく引いた。飛び出した矢は一番奥の高い的に刺さった。
間をおかず次々に矢が飛んでいき、合わせて10本のうち9本が的を射抜いた。
「随分調子がいいな、カーク。いつもより速くて、的中率もイイ。ギャラリーが違うと、こうも違うかぁ?」
ジャック兵士長の言葉にカークは少し顔を赤らめて、咳払いすると僕の方を向いた。
「どうだろう。参考になったかい?」
僕は少し興奮してカークさんに言い募った。
「はいっ!素晴らしい腕前ですね。カークさんが弓で有名なのは当たり前です。
速さも命中率も素晴らしいです。まるでロビンフットのようでした。
…カークさん、ひとつお願いがあるんですが、よろしいですか?」
カークさんはニコニコして、なんだいと僕に頷いた。
「ちょっと両腕を触らせて頂いてもよろしいですか?」
あれ?カークさんが、何ならジャックさんまで顔が引き攣ってるけど。
もしかして僕は非常識な事をお願いしたのだろうか⁉︎
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