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6 そんなつもり
狭いベッドの上で全裸のまま並んで横たわる男から「優馬が」と聞こえた気がして、昴は急激に心が濁るのを感じた。
視線だけ向けると、寝転んだままスマホを見ている天音がちらりと昴を見て、
「鍵見つかったから自分ちに帰るって。世話になったから昴にもお礼言っといて、だって」
「へえ……良かったじゃん。こっちこそごちそうさまって言っといて」
天井を見ながらそう答えたが、返事がなかった。
再び視線を向けると天音はいつの間にか身体ごとこちらを向いて、何故かにやりと笑っていた。
「……なんだよ」
なんとなくムッときて口を尖らせてしまった。すると、
「まだ拗ねてんの?」
唇を指先でつままれる。払いのけるよりも早く天音の指が離れ、代わりに唇が近づいてきた。
チュッ、と音を立てて吸い、離れる。それから天音は少し困ったように眉を寄せて、小声で「ごめん」と言った。
「俺があいつ呼んじゃったから」
「いいよもう。実際、飯助かったし」
「でもずっと怒ってたじゃん」
「もう怒ってねえし」
「ほんとかな」
天音が再び顔を寄せる。軽く唇が触れて、それから額がこつんと触れ合い、もう一度、今度は少しだけ長く唇が重なって、ゆっくりと離れた。
「……これでいい加減機嫌直してよ」
熱っぽい瞳が間近から昴の瞳の奥を覗き込み、見透かそうとしている。
わずかに揺れるその瞳を見返しながら、昴はようやく自分の愛情が彼のものと擦れ違ってはいなかったのだと確信できた気がした。
まだだるそうな身体に両腕を伸ばし、乱暴にならないようにゆっくりと抱き寄せて、少し赤くなった耳朶にキスを落として囁きかけた。
「お詫びのつもりだったんなら、全然足りてないんだけど」
そうでなくとも、まだまだ欲しくて欲しくてたまらないというのに。
目を丸くする天音をシーツに押しつけると、今度は昴の方から彼の上に覆い被さった。
瞼を落として待っているその唇に口づける前に、ふと視線を上げると、窓の向こうからは冬特有のオレンジ色の西日が柔らかく差し込んでいた。
(了)
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