フィンランドの風

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彼女は自分に自信がなかった。 いつも閉じこもっていた。 暗い性格って言われていた。 でも、このままじゃいけないと思っていた。 なにかを変えないと。 ある雑誌の小さな広告にこう書いてあった。 "今までの自分の殻を捨てよう。髪型を変えるとあなたの世界観も変わる..かも知れません。 " そんな控えめなコピーがちょっと心にささった。 そう、それは小さな街外れにある美容院。 彼女は恐る怖る電話した。 それじゃぁ、すぐご来店くださいって言っている。 思い立ったが吉日! 彼女はそこを訪ねようと中央駅の前からトラムに乗った。終点まで。 そこから散歩道を少し歩くと 優しい海の風が彼女に微笑んだ。見えてきたのは海辺の小高い岩の上に立つトラディショナルな木造の小さな素敵な美容院。 初老の美容師さんと美しい奥さんであろう人が出迎えてくれた。  お客さんは誰もいなかったけど、なんだか暖かく優しい空気が漂っている。楽しい話、漂う爽やかな紅茶の香り。窓から見える穏やかな海の調べ。   うつむき気味だった彼女も次第に心の氷が解けていくようだった。 美容師さんの笑顔とシャキシャキという音と共に自分の髪型が変わっていく。まるで新しい自分が作られて、いえ、それは自から変わって行くように。    出来上がった自分は、どこかに隠れていた明るい表情が久しぶりに光を浴びているようだった。 輝いている。 自分のことが好きになっている自分に気が付いた。 その鏡の奥に写る2人の笑顔も素敵だった。 それからの彼女は不思議といろんなものが怖くなくなった。いい時もそうでない時もそれを冷静に見て前向きになれるようになった。  そして、3ヶ月経った。 鏡の前の自分に微笑んだ。 また髪を切りに行こうとトラムに乗った。 駅前で花を買った。変わった自分を見てもらいたかった。 あれ? 降りる駅を間違えた? 終点なのに。 自分は方向音痴なんかじゃないのに、あの美容院が見つからない。 記憶の場所にあったのはボロボロの廃墟。いくつかの花が飾られている。 散歩の人に聞いた。ここの美容院は? あゝ、随分と昔にあったようだけどね。ここをたまに訪ねてくる人たちががいるんだよ。なんだろうね。 きっと彼女は、あの夫婦からなにかをもらった。 前向きに生きるようにって。 海の微風が彼女を撫でた。
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