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***
どれくらい歩いたのだろう。
ラッシュ時のサラリーマンみたいに急く和希の足取りに、私はついていくので精一杯だった。
私の目の前にある広い背中には羽がたくさんついている。相変わらず羽は降っているが、カフェにいた時よりはだいぶ小降りになっていた。
過ぎる街並みに目をやる余裕もない。
何を考えているの?
何を見ているの?
どこへ行くつもりなの?
頭の中で積み重なっていく疑問のミルフィーユ。
不安定な足元を時折気にしながら、まるで彼氏に手を引かれている彼女のような気分で進み続けた。
無言で歩き続け、二人の息が上がり始めた頃。ようやく少し歩幅が狭くなった。景色を見る余裕ができて私は周囲を見渡した。
「ここって……小学校のそばだよね?」
――懐かしい道。
小学校を卒業して十年も経っていないのに、セピア色の写真の中にいるようだった。
閑静な住宅街を抜け、緩やかな坂道を登る。私はアルバムをめくる感覚で記憶を思い起こした。夕焼けに照らされて長く伸びる影。赤く染まる坂道がレッドカーペットみたいだとはしゃいだ……。
「なぁ、覚えてるか?あの日の夕焼けのこと」
「夕焼け?」
「小学校に上がってすぐ、拙い言葉で約束しただろ?」
坂道の頂点に来ると空が広がった。薄い白い羽のベールの向こう側に、分厚い雲さえ突き破る鮮やかなオレンジ色の光が差していた。
朽ちかけた柵のギリギリまで近づき、和希はそこで足を止めた。
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