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残念ながら夕焼けは拝めないが、二人並んでここに立っているだけで十分だ。
まぶたの裏に、あの日の夕焼けの色がまだ焼き付いている。
「覚えてる……。嫌なことがあるとここに来て夕日を眺めてたっけ。最後に来たのは小学四年生くらいかな?」
「そう。それからは我慢することを覚えてしまったからな。少しは大人になったんだよ。俺達」
「……最後に来た日のこと、忘れてないから」
そう言うと、和希は安心したように笑った。
「良かった」
「――"羽の降る日、願いが叶ったらまたここに来よう"って約束。もしかして本気だったの?」
「当たり前だ!なら、雫は本気じゃなかったってことか?」
「そんなことないけど、そんな日が来ると思えなかったから……」
「――無意味な約束だって?残念だったな。今この瞬間に実現しそうだよ。事と次第によってはお前もな」
「私も……?ねぇ、嫌じゃなければあなたの願いを聞いてもいい?」
「至極単純。俺はたった一つの事実が欲しかったんだよ」
ずいぶん回りくどい言い方をする。彼の悪い癖だ。ロマンチストはキザな言葉で話さなければ死ぬ呪いにでもかかっているのか。
呼吸をすれば、それだけで舞い上がる羽。和希が密かに深呼吸をしたのが分かった。
「――雫。お前が俺を好きだという事実が欲しいんだ」
「……え?」
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