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「もう亡くなったんだけどね。――昔はね、あの雲から雨っていうものが降っていたんだって」
「あめ?」
「うん。水のことだよ。空から無数のしずくが落ちてくるの。その現象を雨と呼んでいた」
「しずく……。そういえばお前の名前、古い字だったよな」
「雫、ね。雫の部首は雨冠って言うの。古い字で結構使ってるのあるでしょ?」
「雷、雪、霧……確かにそうだ。意味は失われたって習ったけど」
古典の授業で習ったことがある。昔は今より色んなものが空から降っていたと。
「昔は雨が降るのが当たり前だった。でもある日、世界中を巻き込んだ戦争が起こった。たくさんの死者が出て、大都市が廃墟になった。そして長きに渡る戦いはある日突然、終止符が打たれたの」
「終戦?」
「そう。そしてその日、不思議なことが起こった。突然、空から大量の白い羽が降ってきた。まるで終戦を祝福しているかのように」
降り積もる羽を見てとんでもないことをしたと気づいた人々は、以前の世界を復興するために尽力したそう。そして今に至る、というわけ。
「それ以来、羽が降るようになったんだって。終戦の日の平和を、万物への愛を祈った気持ちを忘れないために。……まぁ、おばあちゃんも代々語り継がれてきた昔話みたいなものだって言ってたから、本当かどうかは分からない。でも素敵でしょ?」
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