にわか羽

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***  電車から降りた途端、目の前に白い羽が落ちてきた――。  今日の天気予報は晴れ。  だから私は傘を持って来ていなかった。いつも鞄に入れっぱなしにしていた折りたたみ傘は、久しぶりに開いたら骨が折れており、つい先日捨ててしまった。  ため息と共に、ホームと屋根の隙間から覗いた空は見事な曇天(どんてん)。電車に乗る前はあんなに澄んだ青空だったのに。    ――にわか(ばね)。  灰色の街並みを、空から降り注ぐ無数の白い羽が覆い隠す。 「走る?」  隣で和希(かずき)が呟いた。  つまり、彼も傘を持っていない。 「良いけど……結構距離あるよね」  私と和希はご近所さん。最寄り駅から自宅まで二十分はかかる。この土砂降りの羽の中を走るのは少し嫌かもしれない。  とりあえず改札を出ると、私達と同じ状況であろう人達の群れができていた。自宅にいる母親に電話をかければ迎えに来てくれるだろう。でも……。 (にわか羽ならきっとすぐ止む。だからもう少しだけ――) 「……すぐ止むよ。走るよりカフェに入って待たない?」 「カフェってあそこの?駅の外じゃん」  カフェは屋根の無い駅の外。と言っても駅から目と鼻の先の通りだが。それでもこの激しさなら羽を(かぶ)るだろう。 「電話すれば……」 「行こう」  和希の言葉を、わざとらしく聞こえなかったフリをして(さえぎ)り、私は駅を飛び出した。 「あっ……!おい、待てよ(しずく)!」  
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