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電車から降りた途端、目の前に白い羽が落ちてきた――。
今日の天気予報は晴れ。
だから私は傘を持って来ていなかった。いつも鞄に入れっぱなしにしていた折りたたみ傘は、久しぶりに開いたら骨が折れており、つい先日捨ててしまった。
ため息と共に、ホームと屋根の隙間から覗いた空は見事な曇天。電車に乗る前はあんなに澄んだ青空だったのに。
――にわか羽。
灰色の街並みを、空から降り注ぐ無数の白い羽が覆い隠す。
「走る?」
隣で和希が呟いた。
つまり、彼も傘を持っていない。
「良いけど……結構距離あるよね」
私と和希はご近所さん。最寄り駅から自宅まで二十分はかかる。この土砂降りの羽の中を走るのは少し嫌かもしれない。
とりあえず改札を出ると、私達と同じ状況であろう人達の群れができていた。自宅にいる母親に電話をかければ迎えに来てくれるだろう。でも……。
(にわか羽ならきっとすぐ止む。だからもう少しだけ――)
「……すぐ止むよ。走るよりカフェに入って待たない?」
「カフェってあそこの?駅の外じゃん」
カフェは屋根の無い駅の外。と言っても駅から目と鼻の先の通りだが。それでもこの激しさなら羽を被るだろう。
「電話すれば……」
「行こう」
和希の言葉を、わざとらしく聞こえなかったフリをして遮り、私は駅を飛び出した。
「あっ……!おい、待てよ雫!」
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