13人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ強いていうならアンタの腹の中でもあるかな。”どこの下手くそだよ事故った奴、ふざけんなよ” ”遅刻する、ただでさえ謝らなきゃいけない案件なのに” ”そもそもしくじった円藤が悪いのに。何であんな馬鹿の尻ぬぐいしなきゃいけないの” ”無能で役に立たないくせに余計な事ばっかして” かあ。そりゃ円藤がアンタの部下なら尻ぬぐいするのは上司の役目だろ、何言ってんの。部下が無能なのは上司が無能な証拠だよ」
「むのうー!」
「なっ!?」
車の中で考えていた事を言われ驚く。声に出したわけでもない、本当に苛々しながら考えていたことだ。誰にも言っていない。
「しかも事故起こした人に怒ってるけどアンタも同じだからね」
「おなじー!」
「!?」
そうだ、思い出した。苛々しながら制限速度を超えて走っていた。急に猫が飛び出してきてブレーキを踏んだら車体がゆれて、そのままカーブを曲がり切れずに……。
「私、死んだの!?」
「知らないよそんな事。ここがあの世にでも見える?」
「じゃあどこよ!」
「さっき言っただろ、頭悪いな」
女性の相手をするのが面倒になったらしく青年は別の山へと歩きだす。しかし少女は女性の言動が面白かったのか先ほど青年が紙を漁っていた山に近づくと顔ごと上半身を紙山の中につっこみ中に入っていく。そして少ししてから山の中から出てきて一枚の紙を女性の前広げて見せた。
「ほら」
いつの時代だと言いたくなるようなおかっぱに赤い着物、口には真っ赤な紅が塗られている。ぱっと見の印象ではまるで座敷わらしだ。先ほどの青年も浴衣のようなものを着ている。
不気味に思いながらも出された紙を見つめれば、差し出された時は何も書かれていなかったはずなのに見つめた途端先程の自分の愚痴が書かれていた。
「なにこれ」
「おもったでしょ。だからふってきた」
まさかと思い少女が入った山を見つめる。そして適当に数枚の紙をつかんで見てみると、やはりつかんだ時は何も書かれていないのに見つめた瞬間文字が浮かび上がる。
新人なんだから電話ぐらい出ろよ、役立たず
山本、たばこ臭い。禁煙が当たり前の世の中でタバコ吸うとか馬鹿なんじゃないの
スマホ見てる暇があるんだったら仕事しろよ吉崎、一番仕事できないくせに何様だよ
すべて職場で自分が考えていた文句。しかし口に出すと明らかに雰囲気が悪くなるしなんで自分が憎まれ役を買ってまでそんなことを言わなきゃいけないのかと本人たちに言った事は一度もない。心の中で考えていただけだ。心の中で何度も何度も吐き捨てていた。
最初のコメントを投稿しよう!