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先程の男、ここは腹の中だと言った。自分の考えていた事が降り積もっているこの場所。腹の中?
「言葉を外に出さずに飲み込む。言葉は腹の中に溜まっていく。どんどん降り積もって山になる。あんたの山は一際大きいな」
別の山から紙を選別していた青年が振り返らないままそんなことを言う。ここにきてようやく、青年と少女を、この場所を不気味に感じてきた。事故は起こした、それは間違いない。つまり自分は今死にそうか、死んでしまったか。ここが普通の場所じゃないのならこいつらも普通の人間ではない。
タイムスリップしたかのような古い平屋建ての建物に、無限に続くのではないかというくらい広い庭。そこに大小さまざまないくつもの山がたくさんある。十や二十ではない、暗くて良く見えなかったがもっとある。空は夜のように暗いと言うのに、周囲の光景ははっきりと見えるのが不気味だ。
先ほど少女が紙を漁った山の紙を大量に掴むと次から次へと紙を見る。そこに書かれていたのは間違いなく自分の愚痴や不満だ。すべてを覚えているわけではないが具体的にいつどこで誰が、どんなことが腹が立ったのかが書かれていてすべて心当たりがある。SNSにあげている内容もある。
なんなのだ、ここは。
「何よここ、あんたたち何なの?」
「それ本当に知りたい事? 自分はどうしたら帰れるのかとか聞かないわけ」
小さく鼻で笑われ、少女もケラケラと笑う。
「おばさん、あたまわるい!」
「はあ!?」
まだ二十八だ、おばさんと言われる筋合いはない。この青年も少女も、自分の嫌いなタイプだ。相手を馬鹿にして上から目線で物を言ってくる。薄気味悪いガキ二人、マジでウザイ。
するとふわふわと数枚の紙が落ちてくる。それを縁側に置いてあった長い棒を使って少女は紙を棒に引っかけた。そのまま棒の先端を青年に向けると彼は紙を受け取りふっと小さく笑う。
「薄気味悪いガキ二人マジでウザイ、か。そっか、僕も一応ガキに入るのか。そりゃそうか、おばさんより年下だもんな」
「ばばあ! ばばあ!」
「うるさい!」
早く帰りたい、一秒だっていたくないこんなところ。
紙がふわふわと落ちてくる。先ほどと違って拾わずにじっと見つめた青年は、文字が読めたらしく女を見つめて静かに言う。
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